終話 想い繋ぐ紫水晶

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「サフィー様は、クロシュラ様と離縁なさったのでしょうか」 「サフィー? ……ああ、クロシュラの結婚相手ですか。いえ、離縁はしていないはずです。クロシュラとともに地方に移り住んだのではないでしょうか。というのもクロシュラの左遷先が、サフィー殿のご生家のある村であったはずです」 「そうなんですか……サフィー様は離縁を望まなかった? 優秀な神具師であれば、クロシュラ様がいなくとも神都で生きていくことはできたでしょう」 「サフィー殿が離縁を望まれたかどうか、それは私どもの知るところではございません。しかし風の噂を聞くに、サフィー殿は神具師業界の問題児であったとか。神具師としての腕を笠に着て、何人もの神具師と肉体関係を持っていたと聞き及んでおります。神都は広い都市ですが神具師界隈は狭い。一度問題を起こしてしまえば神具師として生きていくことは困難です」 「そう……」  ダイナの銀色の瞳がかげる。副隊長の女性が、やはりはきはきとした口調で隊長の言葉を引き継いだ。 「身の丈に合わない地位や名誉は人を狂わせます。あの2人はそれだった。神都隊副隊長の地位も、有名神具師の肩書も、神都の街も、彼らには分不相応だったのです。身の丈に合った地位と、慎ましやかながら食うに困らぬ生活。それだけの物があれば彼らとて常識的な心を取り戻すでしょう。ダイナ様が彼らの行く先に憂いを抱く必要はございませんよ」  凛とした声が響くかたわら、ルピはまた時計を見上げた。現在時刻は13時15分を回っている。ダイナは13時20分には控室を出て、神殿前に停められた馬車へと乗り込まねばならない。  屋根のないカブリオレの馬車に揺られ、国王アメシスと一緒に神都の街中を一周するのだ。沿道は王と王妃の姿を一目見ようとする人々でごった返し、今日という日をもってダイナは正式に神国ジュリの王妃として民に認められる。記念すべき一日だ。    これ以上話し込んでいては乗り込み時刻に遅れてしまう。ルピの焦りが伝わったようで、隊長と副隊長はダイナに向けて深く一礼をした。 「予定以上に話が長引いてしまいました。私どもはこれにて失礼いたします。ダイナ王妃殿下、本日は誠におめでとうございます」
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