6話 紫紺の髪の客人

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6話 紫紺の髪の客人

 その一風変わった客人は、ある日突然やって来た。紫紺色の髪と、同じ色合いの紫紺の瞳を持つ若い男だ。身体は細身で背は高い。それだけならば何もおかしなことなどないが、ダイナがその男を『変わった客人』だと感じたのは、彼のまとう空気が独特だったからだ。 「ご注文はお決まりですか?」  ダイナの質問に男性は食い気味で答えた。   「コーヒー」  ダイナは思わず息を呑んだ。常連客ばかりの『カフェひとやすみ』で、目線すら合わされずに注文をされたのは初めての経験だ。 「えっと……砂糖とミルクはお付けしますか?」 「どちらも結構。……ああ、一番安い菓子を付けてくれ」 「ではコーヒーセットをお持ちします。少々お待ちください」  注文票に鉛筆を走らせ、ダイナはそそくさとその客人の元を立ち去った。  無表情で偉そうな客、それが第一印象だ。  コーヒーと茶菓子を盆にのせたダイナが厨房を出たとき、テーブルにその客人の姿はなかった。ダイナがきょろきょろと辺りを見回せば、すぐに目的の人物は見つかった。紫紺の髪の客人は、長躯を屈めて陳列棚に見入っている。しこしこと作りためたダイナの神具が並べられた棚だ。  ダイナは無人のテーブルにコーヒーと茶菓子をのせ、客人の背中へと歩み寄った。 「あの……コーヒーをお持ちしましたので、冷めないうちにどうぞ」 「こちらの工房では、長く神具を作っていなかったはずだ。新しく神具師を雇ったのか」  またもや食い気味で返される言葉に、ダイナは本日2度目となる息の塊を飲み込んだ。 「……はい、私がその神具師です」 「あなたが神具師? ではこれらの神具は、全てあなたが作った物か?」 「そうです。私は神力が強くありませんから、つたない物ばかりですけれど」  それからしばらくの間、客人は無言で神具を見下ろしていたが、やがてぶっきらぼうに言った。 「ではこちらに並ぶ神具を全種類、各3つずつ。紙袋に入れてくれ」 「あ、はい。ご購入ありがとうございます。使い方を説明しましょうか?」 「結構。大抵の神具は一度使えば仕組みがわかる。分からなければ後日、聞きに来る」 「はぁ……」  紫紺の髪の、無表情で偉そうな客。  それが第一印象。  ***
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