6話 紫紺の髪の客人

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 ***  紫紺の髪の客人と次に会ったのは、最初の出会いから1週間が過ぎた頃のことであった。  その日、ダイナはヤヤに頼まれ神都の街中へと買い出しに出ていた。腕いっぱいの荷物を抱え、『カフェひとやすみ』へと帰り着いたとき、店内にその客人の姿を見つけた。  時刻は昼下がり。店内に他の客の姿はなく、紫紺の客人はヤヤと話を弾ませていた。 「私はヤヤ殿の神具が好きだったんだ。神具としての力は弱くとも、日々の生活を少しずつ豊かにしてくれた。嚙むたびに味が変わる眠気覚ましのチューイングキャンディ。あれには何度助けられたことか」 「最近の神具は効果が派手で、その分お値段もお高いですからねぇ。庶民のお財布では購入をためらってしまいます」 「全くその通りだ。私は、神具とは人々が気軽に手に入れられて然るべきものだと考えている。しかし街の神具店が目玉商品として売り出す物は、効果も値段もお手軽には程遠い。神都の中心部で暮らす者が退魔の籠手(こて)など買い求めてどうする? 神具は、金持ちが屋敷を飾りたてるために買う物ではない」  ダイナは扉の傍に立ち、長いこと2人の会話に耳を澄ませていた。盛り上がりを見せる会話に、部外者が口を挟むのはいかがなものかと考えたのだ。  このままこっそりと厨房に逃げ入ってしまおうか。ひっそりと歩み出したダイナの右足がたわむ床板を踏む。ぎしり。思いがけず大きな音が響き、ヤヤと客人の視線がダイナの方へと向いた。 「ダイナちゃん。お帰りなさい」 「ああ、ダイナ殿。あなたの帰りを待っていた。少し話がしたい」  客人はダイナの傍へと歩み寄ると、ダイナの腕の中から荷物を取り上げ、手近なテーブルの上へと置いた。片づけは後回しにして会話に参加せよ、という意味らしい。 「ダイナ殿。あなたの神具は素晴らしかった。職場の者数名で使わせていただいたが、どの神具も好評だ」
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