8話 アメシス

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8話 アメシス

 ダイナが紫紺の男と再び出会ったのは、ヤヤに頼まれた買い出しを終え、神都の街中を歩いている最中のことであった。両手いっぱいの手荷物を抱えたダイナは、人混みの中に紫紺色の頭を見つけ、数秒迷った後に声をかけた。 「お久し振りです」  紫紺の男はすぐに振り返った。 「ダイナ殿。久し振りだな」 「お仕事ですか?」 「半分は仕事、半分は趣味だ。街の裏路地にある小さな神具店を巡っていた」  ダイナは重たい荷物を抱え直し、質問を重ねた。   「神具関係のお仕事に就かれているのですか?」 「一部関わりのある仕事だ。神都内で製作される新商品には極力目を通すようにしている。大通りの大きな神具店は、新商品が発売されると大々的な広告が出されるだろう。しかし個人の小さな神具店は、こちらから足を運ばねば新商品を見落としてしまう。だからこうして時々街を巡っている」 「そうなんですか……」  ダイナはまた腕の中の荷物を抱え直した。本日の買い出しは食パン3斤に牛乳5リットル、それにいくつかの調味料。かなりの重さだ。 「ダイナ殿は買い出しか?」 「はい。お陰様でカフェのお客様が増えていて、仕入れが追い付かないんですよ」  ダイナが大口注文の納品を終えたのは、今日から2週間ほど前のことだ。達成感に浸ったのは束の間のことで、ダイナの休息を奪うようにカフェの客入りが増え始めた。それも初めて『カフェひとやすみ』を訪れる新客ばかり。  事情を聞いてみれば、どうやらダイナが神具を納入した神官舎内で『カフェひとやすみ』が話題になっているという。神官舎内で出回っている便利な神具は、どうやらそのカフェの店員が作ったものらしい――と。そうして珍しいもの見たさの役人らが『カフェひとやすみ』を訪れているのだ。嬉しい悲鳴、と言えばその通りなのだが。 「店の売り上げに貢献できたようで何よりだ。では宣伝の責任者として、こちらの仕入れ商品は私が運ばせていただこう」  紫紺の男はそう言うと、ダイナの腕の中から荷物を取り上げた。有無を言わせない一瞬の強奪である。ダイナは大慌てで荷物に向かって手を伸ばした。
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