683人が本棚に入れています
本棚に追加
「クロシュラ様。私の父には何と説明するおつもりなのです。資金の援助をするから事業を拡大するがよいとの言葉を信じ、私の父は先月、工房拡大の工事契約を締結したばかりです」
「その件についてはすまなかったと思っている。慰謝料という名目でいくらか金銭を支払うから、上手くやりくりをしてくれ」
「そんな……お金を払えば済むという話ではありません!」
「そうは言われても、仕方がないだろう。サフィーは君よりもずっと魅力的な女性だ。これを見てくれ」
クロシュラはすらりと、腰に差した剣を抜いた。
「この剣はサフィーが加護を与えた物だ。固い岩をもやすやすと砕き、手入れを怠っても鈍ることはない。俺はこの剣で10頭もの魔獣を切ったが、刃こぼれ一つしないんだ。ダイナ、君にこの剣が作れるか?」
クロシュラの質問に、ダイナは言葉を返すことができなかった。
ダイナの住む国を『神国ジュリ』という。民はみな神の血を引いており、『神力』と呼ばれる力を源に不可思議な術を使うことができる。
膨大な神力を持つある者は、枯れかけた大地に大粒の雨を降らすのだという。またある者は、指先で触れただけで他者の傷を癒すのだという。
そして神力を用いて造られる特殊な道具を『神具』と呼び、それを造る者達を『神具師』と呼ぶ。一言に神具師と言ってもその実力は様々だ。サフィーのように武器に加護を与えられる優れた神具師もいれば、ダイナのようにガラクタしか作れない神具師もいる。
しかし神具師としての実力など、今この場では関係のないこと。サフィーが優れた武器を作ることも、ダイナが神具師として劣ることも、クロシュラがサフィーを選ぶ明確な理由にはなり得ないのだ。
ダイナは痛いほどこぶしを握りしめた。
「加護を与えられた剣ならば、村の武器屋にも売っています」
「失敬。何も俺は、この剣を理由にサフィーを求めるわけじゃない。サフィーは君にはないたくさんの物を持っている。見た目の美しさも、しとやかさも、話術も。そして何より――」
クロシュラはそこで言葉を区切り、ダイナの胸元を見下ろした。サフィーの豊かな胸元には似ても似つかない、ささやかな膨らみを。
「今まで言っていなかったが、俺は胸の大きな女性が好きなんだ」
寝耳に水の発言である。
最初のコメントを投稿しよう!