1話 婚約破棄

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「クロシュラ様。私の父には何と説明するおつもりなのです。資金の援助をするから事業を拡大するがよいとの言葉を信じ、私の父は先月、工房拡大の工事契約を締結したばかりです」 「その件についてはすまなかったと思っている。慰謝料という名目でいくらか金銭を支払うから、上手くやりくりをしてくれ」 「そんな……お金を払えば済むという話ではありません!」 「そうは言われても、仕方がないだろう。サフィーは君よりもずっと魅力的な女性だ。これを見てくれ」  クロシュラはすらりと、腰に差した剣を抜いた。 「この剣はサフィーが加護を与えた物だ。固い岩をもやすやすと砕き、手入れを怠っても鈍ることはない。俺はこの剣で10頭もの魔獣を切ったが、刃こぼれ一つしないんだ。ダイナ、君にこの剣が作れるか?」  クロシュラの質問に、ダイナは言葉を返すことができなかった。    ダイナの住む国を『神国ジュリ』という。民はみな神の血を引いており、『神力』と呼ばれる力を源に不可思議な術を使うことができる。  膨大な神力を持つある者は、枯れかけた大地に大粒の雨を降らすのだという。またある者は、指先で触れただけで他者の傷を癒すのだという。    そして神力を用いて造られる特殊な道具を『神具』と呼び、それを造る者達を『神具師』と呼ぶ。一言に神具師と言ってもその実力は様々だ。サフィーのように武器に加護を与えられる優れた神具師もいれば、ダイナのようにガラクタしか作れない神具師もいる。    しかし神具師としての実力など、今この場では関係のないこと。サフィーが優れた武器を作ることも、ダイナが神具師として劣ることも、クロシュラがサフィーを選ぶ明確な理由にはなり得ないのだ。  ダイナは痛いほどこぶしを握りしめた。 「加護を与えられた剣ならば、村の武器屋にも売っています」 「失敬。何も俺は、この剣を理由にサフィーを求めるわけじゃない。サフィーは君にはないたくさんの物を持っている。見た目の美しさも、しとやかさも、話術も。そして何より――」  クロシュラはそこで言葉を区切り、ダイナの胸元を見下ろした。サフィーの豊かな胸元には似ても似つかない、ささやかな膨らみを。 「今まで言っていなかったが、俺は胸の大きな女性が好きなんだ」  寝耳に水の発言である。
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