9話 頂

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9話 頂

 神都の中心部から少し離れた場所に『神殿』と呼ばれる建物がある。赤い煉瓦造りのさほど大きくはない建物だ。自然が少ない神都であるが、唯一その神殿の周囲だけは美しい緑が溢れている。  神殿には神国ジュリの国王が住まう。国外からの旅行者は神殿のことを『王宮』などとも呼ぶけれど、とにかくその煉瓦造りの建物は、民から神殿と呼ばれ親しまれている。  神殿には渡り廊下が付いている。神殿と、神国ジュリの役所である『神官舎(しんかんしゃ)』を繋ぐ渡り廊下だ。国王は日々神殿内部で執務を行い、国家の僕である役人――『神官』は神官舎内部で公務を行う。そして神官の中でも限られた者だけが、渡り廊下を渡り、神殿へと足を踏み入れることが許されるのだ。 「国王陛下、失礼致します」  丁寧な礼とともに扉から開く者は初老の神官だ。名をモルガ。200人に及ぶ神官の中で、神殿へと立ち入ることが許された数少ない人物だ。 「何用だ。本日分の決裁書なら先程受け取った」 「謁見申し込みが入っております。大都市ルゴールの首長殿が、近日中に殿下にお会いしたいと」 「ルゴールの首長? 謁見の目的は」 「都市内部で新条例を制定するにあたり、殿下の意見を求めたいと仰っております」 「……条例の制定については、各首長の判断に任せているはずだ。顔を売り込みたいがだけの謁見なら断ってくれ」  有力者が己の権力を高めるために、国家の最高権力者と接点を持ちたいと考えるのは至極当然のこと。しかしそうした謁見を全て受け入れていたのでは、ただでさえ多忙な国王は通常の執務がままならなくなってしまう。  部屋の中にはしばし沈黙が落ち、やがてモルガは静々と口を開く。 「ルゴールの首長殿は、娘を謁見の席に同席させたいと仰っております」
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