10話 厄日

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「私がここで働いていることを、どうやってお知りになったのです?」 「私が勤める神具店にこのカフェの常連がいるのよ。銀髪の女の子が働いていると聞いて、もしかしたらと思ってね。一点の曇りもない銀の髪なんて、神都でもあまり見かけないでしょう」 「……サフィー様は神具店にお勤めなんですか」 「そうよ。大通りの2本南側の通りにある白塗りの店。加護付きの剣を持参したらその場で採用をいただいたわ。神都の神具店はレベルが高いと聞いていたけど拍子抜けよ。たった一晩で仕上げた剣で採用をいただけるなんて」  大通りの2本南側の通りにある白塗りの店。そこはダイナがこの街に来て最初に訪れた神具店だ。持ち前の神具を披露し、あえなく不採用を突きつけられた。  ダイナが手に入れられなかった物を、サフィーはまたしても手に入れたのだ。神都での恵まれた暮らし、神具師としての地位、クロシュラの愛。ふつふつと憎しみが湧き上がるダイナの心中を知ってか知らずか、サフィーはご機嫌と語る。 「今日はお店がお休みだから、街歩きを楽しんでいたのよ。私、神都に来て本当によかった。ずっと憧れていたの。だって神都には私の欲しい何もかもがあるんだもの。綺麗な服も、美味しい食事も、たくさんの人の羨望の眼差しも。誰もが私を羨むわ。だって私の夫であるクロシュラ様は、いまや栄光ある神都隊の副隊長。最高の肩書よ。偽りの愛を誓ってでも手に入れた価値はあったわ」  ダイナは一瞬、サフィーの言葉の意味を掴み取ることができなかった。   「偽りの、愛?」 「そうよ。あなたには悪いけど、私はクロシュラ様のことを愛してはいないわ。神都に来るために利用しただけ。言い方を変えれば――たぶらかしたのよ」 「たぶらかした……」 「先に言っておくけれど、このことをクロシュラ様に告げ口しても無駄よ。クロシュラ様は私のことを愛していらっしゃる。私も、彼の前では淑女を演じているわ。あなたが私のことを悪し様に告げ口したとしても信じてなどもらえない。まぁこんな寂れたカフェの店員が、栄えある神都隊の副隊長にそう簡単に会えるとも思えないけれど」
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