11話 厄日…?

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 かちこちかちこち。時計の音が響き、次に口を開いた者はアメシスだ。 「面倒な仕事をこなしてきたところだ。それで気晴らしに、ここへ来た」 「はぁ……」  アメシスの言葉に、ダイナは違和感を覚えた。面倒な仕事が終わったのならそれだけで気分は爽快なはずだ。気晴らしなど必要がない。しかしアメシスの表情は曇ったままで不機嫌なことは火を見るよりも明らかだ。  さらに不自然なことに、今日のアメシスは正装だ。襟の付いた白いシャツに紺色の上着、それに洒落た革靴を合わせている。  会食をしてきたのだろうか、とダイナは思った。アメシスは神官舎の関係者なのだから、どこぞのお偉い様と会食をする機会があってもおかしくはない。その会食の中で不愉快な出来事に行き合い――あるいはその会食自体がアメシスにとって望まないものだったのか――気晴らしのために『カフェひとやすみ』へと立ち寄った。 「あの……楽しいことをなさってはいかがでしょう?」  ダイナが遠慮がちに提案すれば、アメシスは訝しげな表情だ。 「……突然どうした」 「面倒な仕事が終わったのでしょう。でしたら自分に何かご褒美をあげないと。明日は週末ですから、欲しかった物を買いに出るとか、友人と一緒に食事をなさるとか。明日を楽しみにすれば、過ぎた過去などどうでもよくなってしまいますよ」 「ふむ……楽しいことか」 「そうです。実は私も、今日の午前中に嫌な事があったんです。それで今日はもう仕事をお休みにして本を読んでいます。ミルクティーもいつもは1杯と決めているんですけれど、今日はもう3杯目。安上がりですけれど少し気分は晴れました」  楽しいことか、とアメシスは繰り返した。 「ではダイナ殿。明日一日、私に付き合ってくれ」  ダイナは思わず声を上ずらせた。   「……え?」  これが2つ目の予想外の出来事だ。
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