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アメシスはしばらく無言でダイナの装いを眺めていたが、やがて申し訳なさそうに口を開いた。
「ダイナ殿。街を歩く前に、あちらの店に立ち寄っても構わないか?」
アメシスが指さす先には男性用の服飾店がある。
「構いませんが……何か用事がおありでした?」
「上着を買うんだ。この気の抜けた格好は、あなたの隣を歩くには相応しくない」
「……そうでしょうか」
今日のアメシスは、カジュアルなシャツに濃い灰色のズボンを合わせている。昨日の正装に比べれば確かに『気の抜けた』恰好かもしれないが、それでも街を歩くのに不適切な格好というわけではないのだが。
「食事の場所も変更させてくれ。近間のカフェで済まそうかと思っていたが、少し足を伸ばそう。街外れに小洒落たレストランがある。値段は張るが味は確かだ」
「小洒落たレストラン……ですか。あの、私そんなにたくさんのお金は持ってきていなくて」
「金のことは一切気に掛けなくて良い。まずは上着だ。ここで待っていて……いや、悪いが付いてきてくれ。今のダイナ殿が一人になるのはよろしくない」
アメシスは早口でそう告げると、服飾店を目指して歩き出した。
少しずつ遠ざかっていくアメシスの背中を眺めながら、ダイナは申し訳ない気持ちになった。恐らくアメシスは気を遣って『気の抜けた』格好をしてきてくれたのだ。いつもダイナがお洒落とは気の抜けた格好ばかりしているから。食事をする場所も、いつものダイナの格好に合わせて手頃な場所を選んでくれていたのだろう。
「……悪いことしちゃったな」
ダイナは呟き、アメシスの背を追い歩き出した。
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