15話 紫水晶

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15話 紫水晶

 食事を終えたアメシスとダイナは、そのままの足で街歩きを楽しんだ。気の向くまま小道を歩き、通りすがった雑貨屋に入り、足が疲れればベンチに腰を下ろして一休み。  そんな時間を楽しむうちに、辺りはすっかり夕暮れ時だ。白を基調とした神都の街並みを、真っ赤な夕陽が照らしている。楽しい街歩きももうじき終わりだ。 「ダイナ殿。あちらの店に立ち寄っても構わないか?」  アメシスが指さす先は、大通りの一角にある白い煉瓦作りの建物だ。看板はかけられているが何の店かはわからない。 「構いません。私もご一緒した方がよろしいですか?」 「いや、外で待っていてくれ。すぐに戻る」 「わかりました」  アメシスが建物へと向かって行ったので、一人きりになったダイナは夕陽を見あげた。夢のように楽しい一日だった。ダイナは神都にやって来てから今日まで気ままな街歩きを楽しんだ経験はない。食事は全て『カフェひとやすみ』で済ませていたし、カフェで使う食材の買い出しも最低限の店回りで済ませていた。お洒落なレストランで食事を楽しむのも、隠れ家のような雑貨店に入るのも、道端のベンチでおしゃべりをするのも、ダイナにとっては初めての経験だ。  もちろん元恋人であるクロシュラとの外出経験はあるが、小さな村でできることなど知れている。馴染みの食堂で食事をし、農道を歩きながら会話に興じる。それがダイナとクロシュラの全てだった。  ならば今日という日がどうしようもなく名残惜しいのは、初めての街歩きが楽しかったから?  考えても答えは出ない。
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