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16話 事件発生
アメシスとのお出かけから一夜が明けた。
朝食時の混雑が一段落し、ダイナが空いた食器をせっせと片付けていると、厨房からヤヤが姿を現した。
「ダイナちゃん。悪いんだけど、手が空いたら買い出しに行ってくれるかしら?」
「いいですよ、何を買ってきますか?」
「牛乳と卵をお願いできるかしら。昼食時にはオムライスの注文がたくさん入るでしょう。少し心元なくって」
「わかりました」
食器の片付けを終えたダイナは、買い物袋を片手に『カフェひとやすみ』を出た。時刻は午前10時を少し回ったところ。午前11時を過ぎれば昼食を求める人々が入り始める。仕込みの時間を考えれば少し急がなければならないと、ダイナの歩みは早くなる。
馴染みの店で牛乳と卵を買ったダイナは、やはり速足で『カフェひとやすみ』へと戻った。ダイナが店を出たとき、店内はまだそれなりに賑わっていたが、今は静かなもの。日当たりの良いテーブル席に、コーヒーを楽しむご婦人が腰かけているだけだ。
ダイナは物音を立てないようにと抜き足差し足で店内を歩き、厨房の料理台に荷物を置いた。
「ヤヤさん。今、帰りました」
「あらダイナちゃん。早かったわね」
「昼食の仕込みに遅れたらまずいと思って。卵40個と牛乳3本、足りるでしょうか?」
「多分、大丈夫よ。ありがとう」
にっこりと微笑むヤヤは、素早い手さばきで濡れた皿を拭き上げていく。
ダイナは買ってきた食材を食料庫にしまおうと、ヤヤの真横を通り過ぎた。そのとき少し驚いたヤヤの声を聞いた。
「ダイナちゃん、今日は耳飾りを付けていたのね」
「あ、はい。そうなんです。実は人から頂いた物で――」
「可愛いけど片耳だけなのね。そういうデザインなの?」
「……え?」
ダイナは大急ぎで左右の耳朶に触れた。右側の耳朶には、朝と同じく紫水晶の耳飾りがぶら下がっている。しかし左耳は――
「……嘘」
そこに耳飾りはついていない。速足で街を歩くうちに、どこかで落としてしまったのだ。
***
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