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「ど、どうしよう。どうしようどうしよう」
ダイナは半狂乱で神都の街中を駆けていた。ヤヤに耳飾りの紛失を指摘されたダイナは、平静を装いながら『カフェひとやすみ』を飛び出してきたところだ。
一体いつ耳飾りの片方を失くしてしまったのだろう。道端の小石を飛び越えたときか、店の看板に肩をぶつけたときか、それとも食料品店で床に落ちた蜜柑を拾い上げたときか。
いずれにせよ昨日貰ったばかりの耳飾りを失くしてしまったなどと、恥ずかしくて人に言えるはずがない。特に耳飾りの送り主であるアメシスには。
ダイナは道を右往左往し、草根を掻き分け、時には這いつくばって耳飾りを探すものの、それらしき物を見つけることはできなかった。
およそ一時間におよぶ捜索の後、意気消沈のダイナは手近な建物の扉を開けた。そこは神都で2番目に大きな神具店だ。白と黒で統一された店内は清潔感に溢れ、数百におよぶ神具がところ狭しと並べられている。
陳列棚のあいだに店員の姿を見つけ、ダイナはふらふらと近づいていった。
「すみません、失せ物を探す神具はありますか？」
ダイナの質問に、店員は丁寧に聞き返した。
「失せ物……とは、具体的にどのような物でしょう？」
「耳飾りです。銀細工の金具に、紫水晶の粒がぶら下がっています。昨日街の宝飾店で購入した物で、さっき片方を失くしてしまって……」
店員は申し訳なさそうな表情でダイナの言葉を遮った。
「当店ではそのような神具の取り扱いはありませんが……記憶をたどる神具ではお力になれませんか？ 過去にご自身の目で見た風景を、水晶玉の中に映し出すことができます」
「それでは意味がありません。だって落とした瞬間を見ていないから……」
「そういう事情でございましたら、申し訳ありませんが力になれそうもありません」
丁寧に告げられてしまえば、ダイナは大人しく引き下がる他にない。
その後もダイナはいくつかの神具店を回った。しかし返される答えはいつも「当店でお取り扱いの神具ではお力になれません」とそればかりだ。情けなく肩を落としたダイナは、神都の街をとぼとぼと歩く。
「どうしよう……せっかくアメシス様が買ってくださったのに……」
思い出されるは赤々とした夕焼け、小箱の中の耳飾り、緊張したアメシスの顔。あの全てを台無しにしてしまったなどと、情けなくて涙が零れてくる。
『カフェひとやすみ』到着を目前にしたとき、あることに気付きダイナは歩みを止めた。真っ暗だった視界が途端に晴れていく。
誰かが作ったあるかどうかもわからない神具を探す必要はないのだ。だって神力は弱くとも、ダイナはれっきとした神具師なのだから。
「この世に存在しない物なら私が作ればいい。失せ物探しの神具を」
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