17話 失せ物探しの神具

1/3

579人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ

17話 失せ物探しの神具

 ぎぎ、と錆びた音を立てて扉が開いた。扉を開けた張本人であるアメシスは、きょろきょろと『カフェひとやすみ』の店内を見回すが、そこに目的の人物の姿はない。 「あら、アメシス様。お久しぶりですねぇ」  穏やかな声の主はヤヤだ。エプロンの端には玉ねぎの切れ端がぶら下がり、袖口にはてんてんとした水跡。『カフェひとやすみ』は正午時の混雑を乗り越えたばかりなのだ。 「ああ、ヤヤ殿。久しいな。失礼だがダイナ殿はいらっしゃるか?」 「ダイナちゃんなら工房にこもっていますよ。もう一週間になるかしら」 「一週間? 一週間、工房にこもりっぱなしという意味か?」 「そうなんですよ。詳しい事情は知らないけれど、作りたい神具があるんですって。お仕事をお休みしてごめんなさいと謝罪を受けたきり、私もまともに顔を合わせていないんですよ。差し入れのおにぎりは食べてくれているみたいだけど、下宿所には帰っていないんじゃないかしら」 「……会うことは、難しいだろうか」  アメシスの質問に、ヤヤは困ったような表情を浮かべた。   「声をかければ工房に入ることはできますけれど……。でも急ぎの用でなければ待ってあげてください。本当に夜も寝ないで一心不乱で神具を作っているんです。今までこんなことはなかったから、よほど大切な神具なんだと思うんですよ」 「そうか……」  アメシスは上着のポケットに右手を入れ、そこにある物体を指先で撫でた。アメシスはその物体をダイナに渡すために『カフェひとやすみ』を訪れた。しかし昼夜も忘れて神具作りに没頭しているというのなら、邪魔をするのは気が引ける。 「アメシス様、いかがします? 一言で済む用事なら、隙を見て私の方から伝えておきますよ」 「……いや。神具作りが一区切りしたときに私の口から伝えよう。幸い仕事は立て込んでいない。数日に一度、立ち寄らせてもらうことにする」 「ええ、分かりました。お待ちしています」  アメシスは上着のポケットに右手を入れたまま、『カフェひとやすみ』を後にした。  ***
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

579人が本棚に入れています
本棚に追加