17話 失せ物探しの神具

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 ***    「できた!」  散らかり放題の工房に、ダイナの声が響き渡った。机の上にはたくさんの木くずが散らばり、床は汚れたタオルやガラス片が積み上げられている。元から綺麗とは言い難かった工房の内部は、今やすっかり廃屋の有様だ。    工房にいるダイナの姿も一歩間違えれば廃人同然。木くず塗れのワンピースに、塗料に汚れた手指と顔。長い髪は簡単にまとめただけで、もう何日も(くし)を入れていない。  その薄汚れたダイナの右手には蜜柑大のガラス玉がのっていた。玉の内部はとろりとした液体で満たされていて、液体の中心には木造りの小舟が浮かんでいる。小舟の先端には木造りのキツツキはちょんと乗っていて、一見すれば綺麗な置き物とも見える。 「お願い、正しく作動してよね……2週間もかかったんだから……」  祈るようにつぶやいて、ダイナはガラス玉をくるりと回した。ガラス玉の底部分には木製の台座が取り付けられていて、物を入れることができるようになっているのだ。ただし入れられる物は、せいぜい親指大の小さな物に限られるのだが。    ダイナはポケットから耳飾りを取り出して、台座の中へと入れた。2週間前にアメシスからプレゼントされた耳飾りだ。その失くしてしまった片方を探したいがために、ダイナはこの神具を作り上げた。 「お願い……!」  両手を合わせて祈れば、ガラス玉の内側でキツツキを乗せた小舟が回る。東、南、西、北。また東、南。まるで失くした船のようにくるくると回転した小舟は、やがて一方を指してぴたりと止まった。船の舳先が指す方角は真南だ。  ダイナはガラス玉を握りしめ、工房を飛び出した。ちょうど扉の外側にいたヤヤがダイナの姿を見て声をあげた。 「あら、ダイナちゃん。神具作りは終わったの? それなら――」 「ヤヤさん、ごめんなさい! 急ぎの用があるの!」  ヤヤの制止を振り払いダイナは走る。人気の少ない住宅街を駆け抜け、大通りの角を曲がり、人混みを避けて走る走る。目指すはキツツキを乗せた小舟の舳先が指す先だ。そこにダイナの探し物がある。
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