17話 失せ物探しの神具

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 大通りを越え上り坂に差しかかったとき、正面から見知った顔が歩いてきた。アメシスだ。アメシスも坂を上ってくるダイナの姿に気が付いたようで、軽い調子で声をあげる。 「ダイナ殿、久しいな。ちょうど今カフェに――」 「アメシス様、お久しぶりです。また今度、ごきげんよう!」  一息でそう叫ぶとダイナはアメシスの傍らを走り抜けた。2週間工房にこもりっきりだったのだから、アメシスと会うのも2週間ぶりのこと。しかし今のダイナにアメシスとの再会を喜ぶ余裕はない。失くしてしまった耳飾りの片方、それを見つけることが最優先なのだから。 「……あれ?」  息を切らしながら坂道を駆けあがっていたダイナであるが、ふいに足を止めた。  右手に握ったガラス玉をまじまじと見つめてみれば、真南を向いていたはずの船の舳先(へさき)が真北を向いている。真北、すなわち今ダイナが駆けてきた方向だ。なぜ探し物の在処が変わってしまったのだろうと、不思議に思いながら来た道を戻れば、先程すれ違ったばかりのアメシスがいる。 「ダイナ殿。急ぎのところを悪いが、私はあなたに用が――」 「アメシス様、申し訳ありません。とても大切な用事があるんです。お話は用事が済んだ後でゆっくりうかがいますから」  気持ちばかりに頭を下げ、ダイナはまたアメシスの横をすり抜けた。上ったばかりの坂道を、今度は息を切らして下っていく。その途中で再びガラス玉に視線を落としてみれば―― 「……あれぇ?」  船の舳先はまた真南を向いていた。  ダイナは眉根にしわを寄せガラス玉をつついた。なぜこうも頻繁に探し物の在処がかわってしまうのだろう。正しく動作したように感じたがやはりまだ未完成だっのか。それとも込める神力の量が足りなかったのか?  戸惑うダイナの元にアメシスが近づいてくる。そのときダイナは気付く。船の舳先がまっすぐアメシスの胸元を指しているということに。 「……アメシス様、失礼ですが用事とは何でしょう?」 「ああ。これをあなたに返さねばならないと思って」  そう言うアメシスの右手には、2週間前に失くしたはずの耳飾りの片方がのっていた。
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