18話 想い繋ぐ

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「なるほど、便利な道具だ」 「便利に見えますけれどこの神具の汎用性は高くありません。同素材の物体と一口に言っても、例えば同純度の金の指輪……という程度でしたら探し出すことは不可能でしょう。同じ木の幹から削り出された刀の(さや)、一つの鉱石から削り出された宝石。物体を構成する元素の配列までもが同じであって、初めてこの神具は正しく動作するんです。正しく名前を付けるとすれば『片割れ探しの神具』というところでしょうか」  神の力によって作られる神具。その力は無限大ではない。例えば病を癒す神具があったとしても、全ての病を綺麗さっぱり癒すことはできないのだ。体内の特定部位の炎症を抑える、特定の病原体のみを死滅させる、などなどその効果はかなり限定的なのである。  神具は神の道具ではない、全ての人の望みを叶える夢の道具ではない。人の力を少しだけ越えた便利な道具、それが神具だ。  ガラス玉を一撫でし、ダイナは説明を続ける。 「耳飾りをいただいた帰り道で、この紫水晶は一つの鉱石から削り出された物であると仰っていたでしょう。幸いにも耳飾りの片方は私の手元にありましたから、限られた用途の神具でも探し出すことができると思ったんです。一から神具を作ったのは初めてだったから、とても時間がかかってしまいましたけれど」  アメシスは、ダイナの手のひらにのる神具を興味深げに見つめていた。そしてそのうちに、何かとんでもないことに気付いたというように口を開いた。 「ダイナ殿は、失くした耳飾りを探すためにこの神具を作った」 「そうです」 「2週間工房にこもりっぱなしで?」 「……そうです」 「下宿所に帰ることなく、風呂も着替えも食事もそっちのけで?」 「そ……」  その通りです、とは言えずにダイナは口を噤んだ。「私は風呂も着替えも食事も睡眠もそっちのけで、あなたに頂いた耳飾りを探すための神具を作っておりました」などと、口にすればほとほと情けない。しかしアメシスの言葉を否定することもできない。  なぜなら今のダイナは、髪はぼさぼさで服は木くずまみれの廃人のような有様だ。目の下には隈もできており、神具製作のために不摂生な生活を送っていたことは隠しようもないのだから。 「あ、あの、特別な意味はないんです。いただいた物を失くしてしまったということが申し訳なくて。睡眠も食事も最低限はとっていましたし、本当に特別なことは何も……」  まごまごと言い訳をするダイナの肩に、ぬくもりが落ちる。
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