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人気のない小道を、ダイナとアメシスは並んで歩いていた。どこを目指すでもなくゆっくりと、一緒にいる喜びを噛み締めるためだけに歩く。身体の横に垂らされた右手と左手は、温もりを分け合うように絡み合っている。
「アメシス様、神都の人々はどのようにして愛を育むのでしょう。私はその……なにぶん田舎者ですから」
クロシュラという婚約者がいたのだから、ダイナだって男女の付き合い方は知っている。しかしその付き合いとは、人口が千人にも満たない田舎町での出来事だ。
鳥のさえずりを聴きながら農道を歩き、馴染みの飯屋で食事をとり、気が向けば馬に乗って山野を駆ける。それがダイナとクロシュラの全てだった。楽しい時間であったことは事実だが、ダイナの常識はこの神都においては通じそうにない。
ダイナの質問に、アメシスは優しく言葉を返した。
「神都の常識になど囚われる必要はない。人の数だけ愛の形があるのだから、私たちは私たちなりの付き合い方を模索していけばいい」
「私たちなりの付き合い方……ですか」
「そうだ。今までどおり私がカフェに通っても良いし、休みの日にはこうして街を出歩くのも良い。仕事上がりに待ち合わせをして、夕食を食べに行くというのも良いな。ダイナ殿、あなたは酒が飲めるか?」
「いえ、あまり得意ではありません」
「では酒がなくても楽しめるレストランを探しておこう。あとは、そうだな。行く行くの私の希望を述べさせてもらえば――」
そこまで言ってアメシスは歩みを止めた。同じように立ち止まったダイナは、不思議に思ってアメシスを見上げた。
「アメシス様、どうされましたか?」
「……ダイナ殿。もし宜しければ一度、私の職場へ足を運んでくれないか?」
「それはつまり、神官舎に来て欲しいという意味でしょうか」
「そうだ。あなたのことを仕事仲間に紹介したい」
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