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20話 神殿
翌朝7時50分。
薄桃色のワンピースに身を包んだダイナは、『カフェひとやすみ』の玄関口に立っていた。朝食を求めてカフェへと入っていく人々が、着飾ったダイナの姿を物珍しげに一瞥する。好奇の視線に居心地の悪さを感じながらも、ダイナは黙って迎えの馬車を待つ。
そうして待つこと5分。人気のない住宅街の向こうから一台の馬車が駆けてきた。神都の街中を走る安価な乗合馬車とは似ても似つかない豪華な馬車だ。船底型の客車は朱漆塗りで、屋根には黄金色の鳳凰の像をのせている。客車の左右にはめ込まれた窓ガラスは紙のように薄く、あちこちに施される紋様は朱漆に映える真っ白なサカキの花。神事に欠かせないサカキの花は、神国ジュリの象徴ともいえる花だ。
身震いするほど豪華な客車は『カフェひとやすみ』の前で留まった。緋色の御者服を着た老齢の男性がダイナの姿を見てにっこりと笑う。
「ダイナ様でございますね。お話は伺っております、どうぞお乗りください」
御者に促されダイナが客車へと乗り込めば、2頭の馬がぶるると鼻息を吐き歩み出す。
走り始めてしばらくの内は、馬車は見慣れた神都の街中を進んだ。ベンチに座る恋人たち、買い物袋を提げたご老人、追いかけっこをする数人の子ども。たくさんの人々の間を抜けて朱漆の馬車はゆっくりと進む。
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