20話 神殿

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 出発から20分が経つ頃には、馬車は広々とした庭園の門前へと到着した。鉄柵に閉ざされた庭園の中心には、さほど大きくはない煉瓦作りの建物が佇んでいる。年季を感じさせながらも一つの傷さえない赤煉瓦の壁には、白い木枠で作られた半円窓が並んでいる。翠色の屋根に小さな煙突と、青空に伸びる鐘楼をのせた美しい建物だ。 「ダイナ様、到着しました。どうぞお降りください」  御者の声掛けに、ダイナは客車からひょいと顔を出した。 「ここで降りるんですか? アメシス様は神官舎に来るようにと言っていたのですが……」  目の前にある建物が神官舎でないことは、神官舎を訪れたことにないダイナにもすぐにわかった。たくさんの人が働く場所ではない、少し豪華な邸宅という印象の建物だからだ。  まさか行先を間違えたのではないかと不安げな表情のダイナに、御者は微笑みを向けた。   「神官舎はこの建物のすぐ裏手に位置しています。建物の内部に渡り廊下があり、自由な行き来が可能になっています」 「そうなんですか……。神官舎の準備が整うまで、こちらの建物で待っていれば良いということでしょうか?」 「ええ、そう伺っておりますよ」  そのとき、花咲き乱れる美しい園庭を駆けて来るものがあった。アメシスだ。アメシスの手が鉄門を内側から押し開けたのと、ダイナが客車から下りたのは、ほぼ同時であった。 「ダイナ殿、おはよう。予定時刻ちょうどの到着だ」 「アメシス様、おはようございます」 「早速だがこちらへ来ていただけるか。皆、あなたの到着を心待ちにしている」  爽やかな表情のアメシスに手を引かれ、ダイナは歩み出す。鉄門を抜け、園庭の中央を貫く煉瓦路をまっすぐに。
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