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「とても美しい場所ですね。ここは神官舎の園庭ですか?」
「違う。ここは神殿の園庭だ」
「神殿?」
「目の前に見える赤煉瓦の建物、あれが神殿だ。ダイナ殿は、神殿の名に聞き覚えは?」
「いえ……恥ずかしながらありません。神都では有名な建物なのですか」
「そうだな、有名だ。神都に住まう者で、神殿の名を知らない者はいない」
田舎者の名に拍車をかけてしまった、とダイナは肩を竦めた。
そうして取り留めなく話しながら、2人は神殿へと立ち入った。美しく装飾された廊下をいくらか歩くと、目の前に細長い渡り廊下が見えてくる。神殿と神官舎が渡り廊下でつながっているのだとすれば、あの渡り廊下を渡った先が目的地である神官舎か。
「アメシス様。こんな早朝に神官舎へお邪魔してご迷惑ではないでしょうか」
渡り廊下の途中でダイナがそう尋ねれば、アメシスからは笑い声が返ってきた。
「本来なら、あなたを神官舎へ連れて行くのは午前9時半頃の予定だった。それまでは私の執務室で雑談でもと思っていたんだが、昨日みなから苦情を受けたんだ。『どうせ一日仕事など手に付かない。無駄に焦らすくらいなら、ダイナ殿が到着しだい早急に神官舎へ連れて来い』と」
「……仕事が手に付かない?」
なぜダイナが新官舎を訪ねるということで、仕事が手に付かなくなるほど浮足立つのだ。質問を口にするよりも早く、2人の足は渡り廊下を渡り終えた。
刹那、割れんばかりの歓声がダイナの耳に届いた。
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