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21話 捕まえた
神官舎は東西に長く伸びた長方形の建物だ。高さは3階建てで、外壁の色は白。公的な施設であるだけに、外壁にも内装にも目立った装飾はない。一部の民から『無機質で面白みのない建物』などとも揶揄されるその神官舎の中では、200人におよぶ神官が日々国政運営に携わっている。
無機質な建物の内部で唯一特徴的な部分と言えば、建物の北側が吹き抜けになっていることだ。1階部分から3階部分までを貫き、天井部に設けられた天窓から陽光が降り注ぐ。吹き抜け部の3階部分は一部が小さなバルコニーのようになっていて、そこに立てば吹き抜けの1階部分に立つ人々を一望することができる。
もっともこのバルコニー部分に立つことができるのは、神官舎の中でも限られた一部の神官だけだ。その年の仕事始めに、一年の抱負を述べる役割を与えられた者。清掃や修繕のためにバルコニーへち立ち入る神官。そしてバルコニーの背部に設けられた渡り廊下を通り、神殿へと赴く選ばれし神官。
彼らを除きバルコニーに立つ者がいるとすれば、それは――
歓声を浴びダイナは身を竦ませた。アメシスに手を引かれバルコニーへと足を踏み入れれば、吹き抜けの1階部分にはたくさんの人々が集まっている。ある者は歓声を上げ、ある者は拍手をし、ある者は仲間同士で手を取り合いながら、バルコニーに立つダイナとアメシスを見上げている。
「ア、アメシス様。とてもたくさんの方々が集まっていらっしゃいます……」
「ダイナ殿の来訪は、昨日のうちに神官舎中に知らせてある。数人の欠勤者を除けば、ほぼ全員が集まっているのではないか」
「ほぼ全員……?」
ダイナはこくりと喉を鳴らした。得意先へ挨拶に行くのだから、神官と顔を合わせることはダイナとて覚悟していた。しかしダイナの予想していた挨拶とは、神官舎内の各事務室を回り「私の作った神具を愛用いただきありがとうございます」と頭を下げる程度のものだった。このように神官舎中の神官が大集合するなどと想像もしていない。
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