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戸惑うダイナの横で、アメシスが一歩前へと進み出る。
「静粛に」
アメシスの声が光溢れる吹き抜けに響けば、騒がしかった空間は一瞬で静寂に包まれる。
「今日は皆に紹介したい者がいる。神都の街の神具師であるダイナ殿だ。およそ1か月半前から神官舎に納入されている数々の神具は、全てダイナ殿の作品である。神官舎内の業務効率化に多大なる貢献をするダイナ殿に、一同大きな拍手を」
アメシスが言葉を終えた瞬間、神官の間からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。温かな拍手を全身に受け、ダイナはかつてない気恥ずかしさを覚えてしまう。故郷では『ガラクタしか作れない』と蔑まれた神具師が、驚愕の出世である。
十数秒続いた拍手は間もなく鳴り止み、辺りが再び静寂に包まれたとき、アメシスは高らかと声を張る。
「さて、続いてもう一点。皆にとってはこちらの方が本題だろう。今この時をもって宣言する。私はダイナ殿を――」
耳が痛いほどの静寂。
「――神国ジュリの王妃として迎えることにする」
轟く歓声、花火のように打ち鳴らされる拍手、湧き上がる熱気。「おめでとう」「今日は神国ジュリの歴史に残る一日だ」「アメシス国王陛下、ダイナ王妃殿下」歓声に混じる数々の言葉。
渦巻き入り乱れる賛美の中、ダイナは一人ぽかんと口を開けていた。
「アメシス様……」
「何だ」
「……アメシス国王陛下?」
「そうだ」
放心状態で見上げたアメシスの横顔は、神国ジュリの頂に立つ王の顔だ。『カフェひとやすみ』で見る和やかな表情とも違う、街歩きの最中に見せた無邪気な笑顔とも違う、昨日の別れ際に見た悪戯な表情とも違う。民から数多の崇拝を集める、凛とした王の顔。
「ひ、ひぇぇぇぇぇ……」
明らかになる事実に激しく混乱したダイナは、銀色の髪を振り乱して駆けだした。
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