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「ダイナ殿、どうか機嫌を直してくれ。強引な手段であると自覚はしていたが、どうしてもあなたを逃がしたくなかったんだ。あなたは田舎出身であることを気にしていたから、馬鹿正直に『王妃になってくれ』と言っても断られると思った。そこでまずは既成事実を作ってしまおうかと。人の数だけ愛の形があるとは昨日伝えたことであるし、実際に愛を育むのは、結婚した後でも遅くはないだろう?」
神殿の廊下にて、さらさらと言葉を並べ立てるアメシス。アメシスの腕の中にはいまだ錯乱状態のダイナが抱き込まれている。「ひぇぇぇ」と情けない悲鳴を漏らしたダイナは、歓声から逃げるように渡り廊下を渡り、神殿の一角にて後を追ってきたアメシスに捕らえられたところだ。
「わ、私は何も聞いておりません」
「そうだ。意図して何も伝えなかった」
「昨日想いを交わしたばかりの身で、まさか今日には妃になれなどと」
「そうだな。非常に急な展開であった」
「ヤヤさんにもベリルさんにも、今日は神官舎に神具の売り込みに行くと言ってあるんです。身体の準備も心の準備も、何もかもが不十分なまま……」
「身体の準備については致し方なし。心の準備は……今でよければ存分にしてくれ。ダイナ殿が落ち着いたら、また皆の元に戻ろう。恐らく今日は誰もまともに仕事などできないから」
そう言うと、アメシスはダイナの身体を力強く抱きしめた。廊下の一角に座り込み、アメシスの胸元に顔を埋めるダイナの姿は、さながら母にすがる幼子のよう。
そうした時間が5分にも及んだとき、ダイナは情けない声を絞り出した。
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