終話 想い繋ぐ紫水晶

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「はい、終わり。崩れたところは全部直したよ」  そう言うと、ルピは山羊毛の化粧筆をテーブルに置いた。テーブルには化粧筆の他にもたくさんの化粧品が散らばっている。そしてテーブルの前には大きな姿見と、純白のウェディングドレスに身を包んだダイナの姿。 「ルピ、ありがとう」 「いいえ。それにしてもすごい数の来客だったね。早朝から今まで、よくぞここまでの謁見申し込みがあったもんだ」  ルピが時計を見上げれば、現在時刻は午後1時を回ったところ。ダイナが身支度を終えた午前9時頃から現在に至るまで、200人ではきかない客人がこの控室を訪れている。客人の地位は他国からの来賓であったり、国内各都市の首長であったりと様々だ。  そして今、ようやく来客の波は途絶えたところである。 「まだ挨拶が済んでいないお客様はいる? 同盟国の国王方は、もう全員お見えになったと思うんだけど」 「うーん、どうかな。ちょっと待ってね」  ルピはズボンのポケットからメモ紙を取り出した。それは今日という記念すべき日に、ダイナとの謁見を望む人々の名簿でもある。ダイナの身支度役兼秘書に任命されたルピは、客人が訪れるたびにそのメモ紙とにらめっこをしていた。  まだ未到着の客人はいるだろうかとメモ紙を捲っていたルピは、やがて声を上げた。 「ああ、ダイナのお父さんがまだ見えていないよ。どうしたんだろう」 「お父さんは、ここには来ないと思うよ。せっかく神都に来るんだから、神具店巡りをするんだって張り切っていたもの。私のウェディングドレス姿はパレード中に一目見れば十分だってさ。手紙にそう書いてあった」 「そうなの? ダイナのお父さんは奔放人だねぇ……」  そう苦笑いを零しながらも、ルピは少し安堵した。もしこの場にダイナの父が現れたとなれば、ダイナが涙を流すことは避けられない。パレードの出発時刻までは残り30分を切っている。今から主役の顔面を作り直すには相当の労力を必要とするだろう。
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