終話 想い繋ぐ紫水晶

5/5

558人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
 2人の客人は颯爽と控室を出て行った。部屋の扉が完全に閉まったとき、ダイナは化粧品が散らばったテーブルの引き出しを開け、小さな箱を取り出した。 「ルピ、耳飾りを付け替えてもらえるかな」  ダイナが差し出した小箱を、ルピは手を伸ばして受った。箱のふたを開けてみれば、中には紫水晶の耳飾りが入っていた。宝飾店特有の刻印が押されているから、そこそこ良い物であると想像はできる。しかし今ダイナが付けているダイヤモンドの耳飾りと比べれば、値段は雲泥の差だ。ルピは不安を感じて問いただした。 「……これに付け替えるの? 耳飾りだけちぐはぐになっちゃうよ。髪飾りも首飾りも指輪も、全部ダイヤモンドで揃えたんでしょう?」 「ちぐはぐになっちゃうから、今まではダイヤモンドの耳飾りを付けていたんだよ。他国のお客様と間近で顔を合わせるのに、ドレスに合わない耳飾りを付けているのはおかしいでしょう。でもこの先は、馬車に揺られて沿道の皆様に手を振るだけ。私の付けている耳飾りがダイヤモンドだろうが紫水晶だろうが、誰も気にしないと思わない?」 「そりゃまぁ……そうだろうけどさ」  それに、とダイナは言った。 「アメシス様の隣に座るのなら、こっちの耳飾りを付けていないと」 「……そう。そういうことなら良いんじゃないかな」  ルピはダイナの耳朶からダイヤモンドの耳飾りを外し、代わりに紫水晶の耳飾りを付けた。お世辞にもウェディングドレスに合っているとは言い難い耳飾りだが、その紫水晶の耳飾りを付けたダイナの表情は先程までよりもずっと眩しくて魅力的だ。  ダイヤモンドの髪飾りを散りばめた銀色の髪、長いまつ毛の内側にある銀色の瞳、ほんのりと色づく頬に薄桃色の唇。白い肌を包む純白のウェディングドレス。  今この瞬間のダイナは、今までルピが見たどんな麗人よりも美しい。  部屋の扉を叩く音がする。薄く開いた扉の向こうからアメシスの声がする。 「ダイナ、時間だ。準備はできているか?」 「ばっちりです」  扉の向こう側にそう答えた後、ダイナはルピを見て微笑んだ。 「じゃあルピ、行ってくるよ」 「はいよ、行ってらっしゃい。ヤヤさんとベリルさんと一緒に、沿道から見ているからね」 「うん。今日は本当にありがとう」  ダイナの背中は白木の扉へと消えて行く。  耳朶に想い繋ぐ紫水晶(アメシスト)を揺らして。  fin.
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

558人が本棚に入れています
本棚に追加