3話 綺麗な服も靴も捨てて

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 ***  国家の中心部だけあって、神都は賑やかな街であった。石畳の敷き詰められた大通りに、ぎっしりと立ち並ぶたくさんの建物。通りを歩く人の数はダイナの故郷の数十倍にも及ぶ。  右へ左へと動く人波を眺めていたダイナは、やがて両手のひらで頬を叩いた。ぱん、と大きな音がする。心機一転、ここが頑張りどころだ。ダイナが神都で人並みの生活を手に入れれば、少なくとも父に心配をかけることはない。神具師の力を生かしそれなりの賃金を手にすれば、多少の仕送りも可能になるだろう。 「まずは腹ごしらえ。それから仕事を探そう」  腹ごしらえの場としてダイナが選んだのは、大通りの一角にある小さな屋台だ。青空に広げられた天幕の下で、青年が具を挟んだパンを売っている。  ダイナは屋台でパンを一つ購入し、売り子の青年にこう尋ねた。 「すみません。私、さっき神都に来たばかりなんです。この辺りに仕事の仲介をしてくれる場所はありますか?」  青年は仕事の手を止めてダイナを見た。 「あんた、神都近辺の街の人?」 「いえ。神都西方の小さな村から、馬車を乗り継いでここまで来ました」 「ふーん……」  青年は少し考え込んだ後、答えた。 「職業仲介所という施設があるにはあるけど、地方出身者の利用はお勧めしない。田舎者は良い仕事を紹介してもらえないし、高額の仲介料金が発生するんだ。それに仕事先との書類のやりとりが必要だから、実際に仕事が決まるまでには何日もかかる」 「では、田舎者が手早く仕事を得るためにはどうすれば?」 「知り合いに紹介してもらうのが一般的だけれど、そうでなければ直談判かな。良さそうな店を見つけたら、店長か店員に雇って欲しいと頼み込む。一番確実で手っ取り早い方法だよ」  なるほど、とダイナは呟いた。高額の仲介料金が発生すると聞いてしまえば、ダイナが取る手段は直談判の他にない。 「私、神具師なんです。できれば神具師として働きたいんですけれど」 「それなら、大通りから2本南側にある通りへ行くといいよ。たくさんの神具店があるエリアだからさ」 「分かりました。ありがとうございます」  ダイナは青年に礼を言い、パンを()()み屋台を後にした。
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