4話 いざ就職活動

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 ***    時は夕方。ダイナは足取りおぼつかなく神都の街中を歩いていた。神都に到着してから4時間が経とうとしているが、ダイナはまだ仕事を見つけられていない。数十軒に及ぶ神具店へと足を踏み入れ、自前の神具を披露し、神具師として雇って欲しいと頼んだのにも関わらずだ。  ここに至るまでに分かったことは、神具店はどこも即戦力を望んでいる。膨大な神力を有し、店の売り上げに即貢献を果たすような実力者を。  だからダイナは雇ってもらえない。ダイナの作る神具は見た目も効果も地味で、店の看板商品にはなり得ないからだ。 「困ったな……」  ダイナは心底困り果てていた。もう一時間もすれば日が暮れてしまう。そうだというのに明日からの仕事先はおろか、今夜の宿も見つけられていない。お腹だってぺこぺこだ。  とぼとぼと歩くダイナの鼻に、こうばしい香りが流れ込んできた。生家の神具店で毎日のように嗅いでいたコーヒーの香りだ。  懐かしい匂いに誘われるようにして、ダイナは人気のない小道へと迷い込む。  迷路のような小道をあちらこちらへと進み、辿り着いた場所は小さなカフェだ。家屋の一階部分を店舗にしただけのこじんまりとしたカフェ。しかしその風貌はどこか懐かしい。チョコレート色の木材を組み上げた外装も、夕陽を思わせる紅色の屋根も、ダイナの生家によく似ている。  ここで夕食を済ませてしまおうと、ダイナがカフェの戸口をくぐろうとすれば、可愛らしい手描きの看板が目に入った。  ――カフェひとやすみ  建物の中にはコーヒーの香りが充満していた。チョコレート色の店内には2人がけのテーブルが5つ置かれていて、そのうちの1つでは老齢のご婦人が読書の真っ最中。閉店時間が近いのか他に客人の姿はない。
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