カモメの翼

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*****  15時ピッタリに、店のドアが押し開けられた。 「いらっしゃいませ」  勤めている店のエプロンの紐を締め直し、私は予約席へ幸田さんを案内した。 「本当に無償でいいんですか? なんだか申し訳ないです。と言いつつ来てますけど」 「いえ、こちらこそ。お礼のつもりなので来ていただかないと困ります」  なんのセットもしていない髪は少し伸びていた。促されるまま座った彼に、カットクロスを着ける。 「短めのツーブロック、でしたね」  髪を切りやすいように束にして(ブロッキング)めていく。 「引っ越しの準備は進んでますか?」 「そうですね。物は元々少ないんで」 「どこに行くんですか?」 「県内ですよ。西の端っこです。実家が建設会社やってるので、暫くはホームページの手直しとか営業を手伝うつもりです」 「『暫くは』ですか」  美容院なのでバリカンは基本的に使わない。それ以上に、時間をちゃんと掛けたかった。丁寧に刈り上げ部分をカットしていく。
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