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15時ピッタリに、店のドアが押し開けられた。
「いらっしゃいませ」
勤めている店のエプロンの紐を締め直し、私は予約席へ幸田さんを案内した。
「本当に無償でいいんですか? なんだか申し訳ないです。と言いつつ来てますけど」
「いえ、こちらこそ。お礼のつもりなので来ていただかないと困ります」
なんのセットもしていない髪は少し伸びていた。促されるまま座った彼に、カットクロスを着ける。
「短めのツーブロック、でしたね」
髪を切りやすいように束にして留めていく。
「引っ越しの準備は進んでますか?」
「そうですね。物は元々少ないんで」
「どこに行くんですか?」
「県内ですよ。西の端っこです。実家が建設会社やってるので、暫くはホームページの手直しとか営業を手伝うつもりです」
「『暫くは』ですか」
美容院なのでバリカンは基本的に使わない。それ以上に、時間をちゃんと掛けたかった。丁寧に刈り上げ部分をカットしていく。
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