カモメの翼

11/15
前へ
/15ページ
次へ
「暫くしたら、また移動ですか?」 「うーん、どうでしょうね。引越し、お金かかりますし。父の紹介で建築設計事務所で働くことも決まってるんですけど、引越し先からそう遠くないんで」 「次も住居に関係したお仕事ですね」 「ですね。蛙の子は蛙、です」  ブロッキングを外しながら、少しずつカットする。手元の髪から視線は外さずに尋ねた。 「大工さんを目指してはいないんですか?」  幸田さんも私ではなく、髪をカットする私の手元を鏡越しに見ているようだった。 「僕は設計の方が好きかな。父の手伝いしてた時は、下請けで指示通りの施工しかできないし。自分ならこうしたいってのが強かったんです」 「それで建築士の資格を取ったんですね」  名刺に書いてあった内容を思い出した。幸田さんはカット中なので頷かず「はい」と答えた。 「大学は建築学部卒で、その後はゼネコンで働いてたんです。二級建築士の資格はその時にとったんです」 「なんで辞めたんですか?」 「なんだろ。管理の仕事より、もう少しお客さんの身近で仕事してる実感が欲しかったというか」 「そっかぁ」 「理想は、『お客さんと一緒に建てる家造り』って感じです」 「あ、それ、いいですね~」  幸田さんの髪はサラサラして気持ちいい。撫でたくなる衝動を抑え、3分の1ほど切り終えた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加