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「暫くしたら、また移動ですか?」
「うーん、どうでしょうね。引越し、お金かかりますし。父の紹介で建築設計事務所で働くことも決まってるんですけど、引越し先からそう遠くないんで」
「次も住居に関係したお仕事ですね」
「ですね。蛙の子は蛙、です」
ブロッキングを外しながら、少しずつカットする。手元の髪から視線は外さずに尋ねた。
「大工さんを目指してはいないんですか?」
幸田さんも私ではなく、髪をカットする私の手元を鏡越しに見ているようだった。
「僕は設計の方が好きかな。父の手伝いしてた時は、下請けで指示通りの施工しかできないし。自分ならこうしたいってのが強かったんです」
「それで建築士の資格を取ったんですね」
名刺に書いてあった内容を思い出した。幸田さんはカット中なので頷かず「はい」と答えた。
「大学は建築学部卒で、その後はゼネコンで働いてたんです。二級建築士の資格はその時にとったんです」
「なんで辞めたんですか?」
「なんだろ。管理の仕事より、もう少しお客さんの身近で仕事してる実感が欲しかったというか」
「そっかぁ」
「理想は、『お客さんと一緒に建てる家造り』って感じです」
「あ、それ、いいですね~」
幸田さんの髪はサラサラして気持ちいい。撫でたくなる衝動を抑え、3分の1ほど切り終えた。
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