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「納得したんです」
「えっ?」
私たちはまた鏡の中で目を合わせた。
「照明を探しにこられた時、違和感があったんです。普通、インテリアショップに来るお客様はウキウキしてるというか、楽しそうなので。姫野さんはそうじゃなかったから」
「そう……かもですね。壊れた照明は、その彼とリサイクルショップで買ったんです」
「なるほどですね」
幸田さんはため息混じりに、憮然として呟いた。
湊人には、不倫に気づいたことを言わなかった。私は次の金曜日が来る前に店をやめて、急遽引っ越した。
メアドも変えた。LINEもブロックした。私のアパートの部屋に残された湊人の私物は処分して痕跡は何一つ残さなかった。縁もゆかりも無いこの地に来て、全部新しくした。
「姫野さん」
幸田さんの声に、思い出から引き戻されてハッとした。
「逃げてるんじゃなくて、捨ててきたんですよ。要らないものは廃棄です」
幸田さんの声は淡々としていたが、怒っていた。それなのに私は慰められるなんて、変な感じだ。
「新しい照明、いいですよ」
「そうですか。それは良かったです」
幸田さんの声は軽くなった。私も口元で笑って、幸田さんの髪をワックスで整えた。
「どうでしょう」
「おお!」
幸田さんはセットが気に入ってくれたようで、照れくさそうにしながらも角度を変えて鏡を見つめた。
「僕史上、一番イケてる感じです」
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