カモメの翼

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***** 「もうお会いすることはないかもですが」  幸田さんが店から出る前、私はスラックスのポケットから小さな名刺ケースを取り出した。  幸田さんはそれを両手で丁寧に受け取り、一瞬、細い目を見開いた。  それはカモメの翼部分のイラストをあしらった名刺。自分の船出を後押ししてくれるようなデザインにしたかった。 「ガルウィングですか」 「えっ」 「いいですね。揚力が大きくて」  幸田さんはスマホを操作して、その画面を見せてきた。そこにはポーランドの戦闘機の画像。翼がカモメのそれに似ていた。 「そういうことは知りませんでした」 「まあ、これは別として、滑空する感じがいいと思います」  幸田さんはボディバッグのポケットに名刺を入れ、頭を下げた。私も遅れないように慌ててお辞儀する。 「家のことで何か困ったことがあったら、ご相談ください」 「あ、ありがとうございます」  そう言って、幸田さんは緑のカブで走り去っていった。
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