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「もうお会いすることはないかもですが」
幸田さんが店から出る前、私はスラックスのポケットから小さな名刺ケースを取り出した。
幸田さんはそれを両手で丁寧に受け取り、一瞬、細い目を見開いた。
それはカモメの翼部分のイラストをあしらった名刺。自分の船出を後押ししてくれるようなデザインにしたかった。
「ガルウィングですか」
「えっ」
「いいですね。揚力が大きくて」
幸田さんはスマホを操作して、その画面を見せてきた。そこにはポーランドの戦闘機の画像。翼がカモメのそれに似ていた。
「そういうことは知りませんでした」
「まあ、これは別として、滑空する感じがいいと思います」
幸田さんはボディバッグのポケットに名刺を入れ、頭を下げた。私も遅れないように慌ててお辞儀する。
「家のことで何か困ったことがあったら、ご相談ください」
「あ、ありがとうございます」
そう言って、幸田さんは緑のカブで走り去っていった。
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