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日常は慌ただしく過ぎていく。次の月曜もその次も、照明探しに行かなかった。
美容師として働き始めてから5年。引越して職場は変わっても生活サイクルはあまり変わらなかった。閉店してからも締めや練習をして片付けると、早くても10時を過ぎる。自宅では風呂に入って寝るだけ。
帰宅して電気のスイッチを入れるとあの照明がワンルームの部屋を照らす。
『雰囲気良いよね』
明るい茶色の髪が脳裏に浮かんだ。即座にその残像を払い除ける。
照明はバランスを失って少し傾いている。なんだか滑稽だった。
*****
「すみません」
「はい……あっ」
振り返った店員は、眼鏡の奥の細長い目を見開いた。覚えてくれていたんだと思うと、気恥しい。
「照明、まだ見つかってないんです」
目を合わせずにボソボソした私の声を拾い上げてくれた彼は、かしこまりましたと小さく頭を下げた。
「カタログをお持ちします」
「あ! いえ」
颯爽と歩いていく彼を声で留めた。私は振り返った彼に、苦笑いした。
「今度はタイプの違うものにしようと思って」
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