カモメの翼

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 気がついたら夕方になっていた。冷房を付ける前に眠ってしまったから、全身汗でびっしょりだった。それなのに涙の跡だけがカピカピの筋になっていた。  のろのろと体を起こし、冷房を入れる。もしこのファン付き照明が取り付け済みだったら快適だっただろうに。  スマホを取り出して管理会社に電話したが、コール音だけで繋がらない。ため息一つ落として、幸田さんの名刺を見つめた。相談するだけなら迷惑にならないだろう。  電話は気が引けたのでメールにしたが、送信後5分ほどで返信が来た。 【19時以降で宜しければ伺いますが、ご都合が悪ければ他のご希望日をお知らせください】  正直、部屋に男が来るのはもう懲り懲りだ。でも幸田さんと会うのは、これが最後だろう。私は返事をするや否や、散らかった部屋を片付け始めた。 ***** 「あー、これは終わってますね」  天井を見上げて、幸田さんは呑気に言った。ポロシャツに綿パンの彼は、職場(インテリアショップ)での彼とは少し雰囲気が違っていた。 「近くにホームセンターあるんで、ちょっと買ってきます」 「えっ!? でも」 「大丈夫です。電気工事士の資格持ってるんで」 「そうじゃなくて......」  言葉の通り幸田さんは私を気にせず、すぐに出かけて行き、カブのエンジン音と共に去ったかと思うと、すぐに帰ってきた。  そして見る見るうちに器具を取り替えて照明もつけてくれた。
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