カモメの翼

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「調光は問題ないですね。ファンは......」  幸田さんがリモコン操作すると、カモメの翼が回り始めた。 「なんか良い気がします」 「販売員としてその感想で良いんですか?」  動作確認というより、目を閉じて両手を広げ、ファンの良さを体感している幸田さんに、私はちょっと笑ってしまった。 「おいくらですか」 「あ、いいですよ。経費で落としますから」 「えっ、大丈夫なんですか?」 「はい。辞めましたから。今日から自営業なんで」  思わず口を開けたまま固まってしまった。幸田さんは何でもないように「もともと今日までなんです」と付け加えた。 「......じゃあ、もう店員さんとお客さんじゃないんですね」 「そういうことになりますね」 「何で、来てくれたんですか」  呆然とする私に、幸田さんはキョトンとした。それからフッと噴き出した。 「......照明、一本アームが折れたままって聞いてたから。場合によっては、根元が壊れてないかと」 「......もしかして、名刺をくれた時、来てくれるつもりだったんですか?」  幸田さんは照れくさそうに鼻の下を擦った。 「最後のお客様だったので。何とかしてあげたい気持ちではありました。僕もうすぐ引っ越すんです」
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