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9月中旬。その日は残暑が厳しかった。だから分からなくもない。
「もう無理ね」
私は天井を見てぼやいた。
引越しの日。引越しセンターの、新卒入社したような小太りの男の子は、入居先の畳に運んで置かれた照明器具を踏んだ。
『踏みましたよね』
反射的に指摘した。それは、湾曲したアームが中心から放射線状に6つ付いた照明器具で、リサイクルで安く買ったものの、私のお気に入りだった。
『あっ、ええ?』
彼は曖昧に返事をした。うやむやにしようとした所を即座に指摘されて動揺したのか、はたまた暑さと疲れでぼんやりしたままだったのか。
彼に踏まれた箇所を調べると、アームが変に曲がっていた。
幸い、すぐに先輩社員が気付き、購入価格で弁償したいと頭を下げてくれた。けど。
「リサイクルで買った安物、なんて言わなきゃ良かったかな」
その場で払ってもらった3000円では、同じような照明は手に入らないだろう。ガムテープで固定していたアームは、事件から一ヶ月後の本日、ぶらんとだらしなく垂れていた。
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