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 ひっそりと静まりかえった深夜の王宮。その一室にて密やかな話し合いが行われていた。 「――最近、姫の周りが物騒なようですね」  まるで天気の話をするかのように大切な姉の話を切り出した男を、アランは射ぬくような目で見据えた。 「……どこからその情報を?」 「なに、実際にその場面に出くわせば嫌でもわかりますよ。そうだな、リーリャ?」  アランは名を呼ばれた虫、いや、かつてこの城に勤めといたこともある侍女を見る。彼女は、首肯によって主人の言葉を肯定した。  報告にあったものだ。彼らと中庭を散策した時、リーズシェランが飲むはずだった紅茶のカップに毒が塗られていたという。それにいち早く気付いたのがリーリャであった。  実行犯はすでに捕らえているが、所詮下っ端で使い捨てだった。 「姉様にはその事は」 「もちろん、言ってないですよ。相手もはっきりしていないのに、不安だけ与えるのもどうかと思いますしね。ただ、自己防衛が取れないのは痛い。……いつまで隠しておくつもりですか?」 「…………」  いつまで? 知らなくてすむなら、永久に知らせるつもりはない。 「取り敢えずは、今のままで。姉様の護衛には警備を徹底させますし、他にも手はうっていますから」  淡々と告げたアランを暫く見つめて、ふっとユーリは口の端を歪めた。 「……まあ、いいですが。ところで、犯人にめぼしは?」 「一応は」  アランはあえて名前は出さずに短く返答した。おそらくこの男も予想くらいはしているだろう。 「私の方でも気をつけてはおきますが……姫の部屋の下にも何人か配置しておいた方がいいですよ。怪しげな人影を見ました」 「姉様の部屋は三階ですよ?」 「あれくらい、軽いですよ。現に私でも――おっと」  ユーリの言葉を聞いた瞬間、アランはどこからか取り出したナイフを放っていた。しかし、ユーリに当たるかに見えたナイフは寸前でリーリャの手にすくい取られる。  部屋にはいつの間にか黒ずくめの男達も現れており、凍り付くような緊張感で満ちていた。  それを破ったのは、ユーリの穏やかな声だった。 「危ないなあ。いきなりとか酷くないですか?」 「貴様、姉様に、なにを」 「してないですよ、特には。おしゃべりしたくらいで、――ねえ?」  同意を求められた侍女は忠実にも一瞬もためらわずに頷いた。もしもこの場にリーズシェランがいたら、思わず動揺してしまっただろう。もっとも、いないからこその会話であり、それを承知の上で発言したのであるが。 「……二度目は許さないよ」 「いいですよ? 次は堂々とドアから入れてもらいますから」  氷の眼差しを向けるアランとにやかに微笑みながら眼は笑っていないユーリ。 「わかっていますよね? 一月経っても姉様があなたの求めに応じない時は」 「きっぱり諦め――は、しないけど、取り敢えず手は引きますよ。約束ですからね?」 「……胡散臭いですね」 「そんな事はないですよ。むしろ、そちらこそ……姫が頷いてくれた場合は、あの約束を絶対に果たしてもらいますよ?」 「……いいですよ? そんな事があったなら、ですが」 「……まるであり得ないとでもいいたげですね、アラン陛下?」 「いいえ? ご自身の不安がそう思わせるのでは?」 「……面白いことを仰りますね」 「あなたこそ」 「……ふふふ」 「……あはは」  同類嫌悪。  似ているからこそ決して相容れない二人。  それぞれの部下達は、冷ややかに笑いあう二人からそっと目を逸らすのであった。
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