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元婚約者との再会は、個人的なお茶会に招く形で行われた。  一通りの挨拶を済ませテーブルに着いたユーリ様は、柔和な微笑みを更に柔らかなものに変えて私を見つめた。 「本当に、無事で良かった。リーズシェラン姫、貴女の事をずっと心配していましたよ」 「あ、ありがとうございます」  優しく気遣われ、頬が熱を持つ。ユーリ様は私より五つ年上の二十四歳。以前お会いした時と変わりなく穏やかで落ち着いていて、しかも美形。  淡い白銀の髪と鮮やかな碧の瞳を持つ、美貌の皇子様に優しく気遣われるだけで経験値の少ない女には厳しいというのに。  ちらり、とユーリ様を見る。  目が合ったとたん、ユーリ様の碧の瞳が甘い光を湛えた。  無言で微笑まれて思わず目を逸らしそうになる。あまりにも非礼なので、ギリギリで堪えたけど……あー、もうやだ、なんか空気が甘い! 甘ったるい!!  私は紅茶を飲んで転げ回りたい気持ちをなんとか抑えた。  兄弟が多い上に地味な私は、王女といえども交友関係は少なかった。夜会なども苦手でよく欠席していたので、社交辞令程度の甘いやりとりさえ慣れていない。  ユーリ様のような人が相手では尚更である。  ……しかも、部屋に居るのはユーリ様だけではないのだ。 「――無事に決まってるでしょう? 姉様だけでなく、他の姉達も皆無事ですよ。この国はあなたの国と違って女性の王位継承権は低いですからね。……それとも僕が姉様に何かするとでも?」  穏やかなのに冷たく凍えそうな声がこの場に漂う甘い空気を一掃する。声の主は、私とユーリ様の中間に座る金髪の青年。この国の王であり、私の弟であるアランだ。  微笑んでいるのにユーリ様を見るその目は冷たい。絶対零度だ。  ユーリ様もアランへと視線を移す。 「いえ? そんなことは。ただ、リーズシェラン姫のように繊細な方が恐ろしい政変に巻き込まれたりしないで良かったと、そうお伝えしたかっただけですよ」 「……へえ。まあ、それはいいです。でも、今回を含めてたった二回しか会った事のない姉様が繊細だとよくわかりましたね」 「それはもう。私はリーズシェラン姫の虜ですからね。ただ、確かにまだまだ姫の事を充分に知っているとは言えません。姫、よろしければこの後、中庭を案内して貰えませんか? お互いをもっと知るために」 「……中庭を散策したいなら侍女を使ったらどうですか? そこの侍女ならうちの城にも詳しいでしょうし」  表面上はあくまでもにこやかに、実際にはぎすぎすとした際どい会話が繰り広げられる。私に向けられたユーリ様の言葉も、返事を返す前にアランがたたき返した。  そして今、アランが冷ややかな目を向けるのは壁ぎわに控える侍女の一人。……リーリャだった。  リーリャがアッシュベルの者だという話は聞いていた。どうしてリーリャが私のところに潜り込んでいたのかはわからないけど、悪い印象は持っていない。  国に帰った後、任務失敗とかで酷い目にあわされていないといい。そう思っていた。  そんな、もう会うこともないだろうと考えていたリーリャが、ユーリ様の後ろから何食わぬ顔で部屋に入ってきた時の驚きといったら……  声を出さなかっただけでもマシだった。私の後ろに控えている、レナードも驚いたらしく息を呑んでいたし。誰だって驚くわよね。  アランは事前に知っていたみたいだけど。  私もアランと同じようにリーリャを見た。リーリャは背筋を伸ばして立ち、目を伏せて何の表情も表していない。  ……いったいなんなのかしら。  再び婚約を結ぼうとしている事といい、リーリャを連れてきた事といい、ユーリ様は何を考えているのかしら。  ユーリ様へと視線を移すと再び目が合った。  また、甘く微笑まれる。  今度は赤くならず、私は困惑の眼差しを彼に投げ掛けたのだった。
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