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3時間ほど経った頃、奏が動く感覚がして弄っていた携帯をベッドボードに置いた。
薄らと目を開けた奏の顔色が良くなっている。
おでこに触れると、熱も微熱まで下がっているようだ。
薬が効いて、睡眠もとれたことで体が十分休めたのだろう。
息遣いも眠る前よりは苦しくなさそう。
「もう少し眠っても良いんだよ」
頭を撫でてやれば、奏が俺を見て安心したように口元を綻ばせる。
こんな表情をしてくれるのなら、やっぱり起きた時はいつでも横にいてあげたくなる。
「……大丈夫。おはよう」
「おはよ、奏」
「蒼は?寝た?」
「夜寝るから大丈夫だよ」
すぐに俺の心配をする奏に、同じくらい自分のことも大切にしてくれれば良いのになと思う。
「薬効いてる?」
「……うん、今は痛みがなくて楽みたい」
「熱も下がってきてるみたいだから、完全に下がったら明日は奏の両親のお墓行こうな」
「ありがとう」
お礼を言う奏の唇が何かを言いたそうに開き、そして閉じる。
きっと話したいことがあると言っていたことなのだろうと直感的に思う。
促すように手を握ると、奏はどこか少し不安そうに握り返した。
「……蒼」
「何?」
「少しお話しても良い?」
「うん」
寝返りを打ち横を向いた奏を抱き締める。
奏がぎゅっと俺の服を掴んだ。
「えっと……蒼は、子ども、ほしい……?」
恐る恐る尋ねる奏に、そういえば最近似たような質問をされたなと思う。
確か子どもが好きか尋ねられた。
そういえばあの日、子どもがぶつかってきてやりとりしていたら、複雑そうな顔をしていたな。
「蒼のお祖父さんも子どもの顔が見たいって言ってた。
きっと蒼の親族は子どもが欲しいよね……」
確かに朝霧家は跡取りを重んじる風習があるし、子どもを生まないなんて選択肢がないほど生むことが当たり前のような雰囲気はあるけれど。
この言い方、奏は不安があるのかな。
「どうしたの?子ども、嫌い?」
「そういうことじゃ、なくて……俺は、
俺は……」
何かを思い出したように震え出す奏に、何だか苦しそうだと思う。
「ごめん、ちょっと水飲む」
サイドテーブルに置いていたペットボトルの水がなくなっていて、奏が体を起こす。
「持ってくるよ」
すかさず立ち上がりコップに水を注いで渡すと、奏がそれを受け取り一口飲んだ。
「……怖いんだ」
「怖い?」
体を起こしたままベッドボードに寄りかかり俯く奏の手が、微かに震えていた。
「……蒼、あれ以来繋がってないけど、
気遣ってくれてるの……?」
「当たり前だろ。お前の後ろ酷い状態だったんだから。トラウマもあるだろうし。
言っとくけど、決して汚れてるから嫌だとかは思ってないから」
「汚れてるよ……っ!」
奏の思いそうなことだ。
実際あの光景を見た俺は、どれだけ突かれてどれだけ中に出されたか知ってしまっている。
あれは入りきらないほど出されていた。
何度も、何度も。
「奏、おいで」
俺もベッドボードに寄りかかると、奏の脇を支えて俺を跨がせ、太ももの上に乗せる。
向かい合って抱っこしているような体制になり、目がよく合う。
「大切な話するから、ちゃんと顔見ながら、ね?」
ゆっくりと頷く奏の背中に毛布をかけてやる。
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