笑顔を見せるその時に

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** 蒼が病室からいなくなると、 その空間は急に冷たく寂しいものになった。 丸3日起きていたとはいえ、手術後初めて目が覚めたのもあり疲労で眠たくなると言われていたのだが。 一向に眠れる気がせず、ゆっくりと時間が過ぎていく。 蒼の折り鶴があって良かった、と思った。 これを見るとほっとする。 一緒に置いていたから持ってきてくれたのであろう青色のネックレスは、渡せなかった。 もう誕生日も随分と過ぎているし、今更と言う気もする。 電気が消え、消灯時間になった。 眠る行為は昔からあまり得意ではなかった。 眠ってから怜さんが合鍵で入ってきたことは多々あったし、悪夢を見て起きることもあった。 ベッドで眠ることで眠りが深くなってしまうと、起きた時目の前にいる怜さんが怖くて、いつの間にか床で寝たり壁に寄りかかって寝る習慣がついていた。 ふいに、携帯が鳴りそれを開く。 そこには、蒼からのメッセージが入っていた。 “消灯した?” “うん、今消えたよ” “寝られそう?” 父親の病院だからこそ消灯時間も知っているのだろう。 寝られない、というと心配させてしまうだろうか。 “寝るよ” “おやすみ。明日は昼前には行く予定だから” そんな早くから来てくれるのかと思うと、少しだけ心が軽くなる。 迷惑かけているとは思うけれど、それでも、ここまでしてくれるのは安心する。 左腕には針が刺さっていて落ち着かない。 明日までは絶食なので、24時間点滴をしている状態になる。 ゆっくりと息を吸い、吐いた。 どうも針が刺さっているという状況には慣れない。 それでも、蒼の言葉があるから、何とか呼吸ができているのだと思う。 何度か意識が飛びかけるが、 その度に怜さんが出てきたり、犯されたり、嫌な夢を見ては起きることを繰り返す。 上手くは眠れなかったが、それでも明日のことを考えれば全然耐えることが出来た。
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