笑顔を見せるその時に

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朝霧蒼 ーー ……またあの席。 まもなく一般教養の講義が始まるため、座る席を選んでいる最中、 俺は窓際1番後ろの席へと目を向けた。 彼はいつもその席にいた。 最初にそいつの存在に気付いたのは、1ヶ月ほど前。 伏目がちに座るそいつがやたら綺麗なので目に止まった。 それから何故か講義のたびに存在を探してしまうのだ。 「おー今日もあの席なのか。 また見てるけどなに朝霧、そんなにあいつ気になんの」 「……いや気になるというか」 「この前も俺に名前聞いてきたもんなぁ。 俺も佐山奏って名前くらいしかあいつのこと知らんけど。 顔綺麗だし高校でも話題にはなってたけどあいつ殆ど喋らないもん」 友達の結斗は佐山奏という男と高校が一緒だったらしい。 「なんか、今日も具合悪そうだなと思って」 「えー?そうかー?普通じゃね? 表情あんま変わらないだけっしょ」 佐山は、いつ見ても体調が悪そうに見えた。 確かに表情が苦しそうに歪んでいるとかそういうことではないのだが、 息の吐き方や力の込め方にそういったものを感じ取ってしまうのだ。 「あいつΩなのかね」 「んーいやβじゃね。 華奢だからαではなさそうだけど。 同じクラスだったこともあるけど匂いとか一切なかったし学校も休んでなかった。首輪もしてないしな。 そもそもうち名門校だしΩは中々入れないっしょ。 え、なにαの朝霧からしたら運命の番的な何かでも感じるの?」 「いや、そこまでではないと思うけど、なんか……目が離せないような、不思議な感覚がするんだ」 「なんだそれ」 αがΩの首筋を噛むことで番になるということは小学生で習う一般常識だ。 それを防ぐため、Ωは専用の首輪をするのが一般的だった。 Ωは定期的にフェロモンを出し他の人を誘惑するために、学校を休むことも多い。 確かに定期的に休むこともなかったのであれば、βの可能性が高いだろう。 「そんな気になるなら近くに座ろうぜー」 「おいおい……」 結斗に手を引かれて半ば強引に隣の席へと座らされる。
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