笑顔を見せるその時に

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朝になると看護師さんがカーテンを開けてくれ、点滴を交換したり検温をしたり等丁寧に行ってくれた。 蒼のお父さんもやってきて、体調を尋ねられる。 「大丈夫です」と答えて、昨日よりも声が出やすいと思う。 「警察が話したいと来ている。 いつかは話さないといけないとは思うが、どうする?」 個室のドアが少しだけ開いており、部屋の外には警察であろう人たちが見えた。 俺のことをじっと見ており、それは時間を無駄にさせるなという圧のようにも感じる。 「体調が優れなければ、明日や明後日にすることもできる。 私が許可出さなければ良いだけだから」 「……話せます」 どうせいつかは話さなければならないのだ。 それならば、早い方が良いとも思えたし、 あまり警察の仕事を遅らせるわけにはいかないとも思えた。 「分かった。 まだ熱も下がっていないし本調子ではないことは警察に伝えて、短時間でお願いしておく」 「ありがとう、ございます」 蒼のお父さんと入れ替わりで、2人の男が入ってきた。 彼らは丸椅子に座ると、メモ用紙を取り出す。 その一連の動作が流れるように綺麗で、 それが逆に無機質な怖さも感じた。 「佐山奏さん、ですよね」 「……はい」 心臓がどくんどくんと鳴っている。 「腕に注射痕がありますね。 これは佐山怜に刺されたものということで間違いないですか」 不躾に腕に触れられ、ぞわぞわとした。 よく知りもしない人に触られるのは嫌だ。 「はい」 「でもこれは、あなたがΩでヒートを起こしたら他に迷惑かけるからという父親としての親切心ですかね。 認可の降りていない薬を使っていたのは問題ではありますが」 ベッドのシーツを握りしめた。 分かってはいたけれど、やっぱり警察はあちら側の人間だ。 「そんなんじゃ、ないです」 「ヒートを起こして誰かに迷惑をかけたことは」 脳内に蒼の顔が浮かんだ。 確かにあの時はヒートになり、蒼に怪我はさせたけれど。 「やっぱりあるんですね」
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