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プロローグ
"残念だけど、もうここにはいられないのか。悪くなかったんだけどな・・・"
真冬の寒い夜にもかかわらず、コート一つ持っていない男は、街並みを見ながらそんな事を考えていた。
星よりも眩しいネオンの光が街を明るく照らす。
夜中だというのに昼間と大差なく明るい街並みが脳裏にこびりつき離れない。
『眠らない街』東京とはよく言ったものだ。
その眠らない街中の仄暗いビルの隙間で、男は今日もひっそりと座りこむ。
カバン一つ持たない男の持ち物といえば、布団代わりの厚がけシーツと片手で抱えられるほどの紙箱一つ。
そしてポケットに入った手のひらいっぱいに収まるほどの小銭。
この小銭を見るたび、ある人に言われた言葉を思い出す。
「やってる事は動物と同じなの分かってるよね?」
「まるでドブネズミだな。」
この言葉が脳裏から離れようとしない。
この街から離れようとしているのにもかかわらず。
追われる身ではないが、男にとって夜逃げ同然での引っ越しとなる。
数少ない手荷物をまとめ、一人この街との別れを惜しみ夜のビル街を移動する。
だ が、行き着く先は本人も分かっていない。
なぜなら俺は『ドブネズミ』。
俺は気がつけば沸いて出てくる存在なのだから。
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