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そうじゃなくなる二人の話5
あ…寒…。と、冷たい肩に触って気が付いた。布のかかっていない素肌はひんやりとしている。
…え? 何で肩? 服は? こんな寒い時期に。と、布団にもぐろうとしたら温かいものが触れた。ん? と、不思議に思ったらそのまま引っ張られる。肌が触れた感触に目が覚めた。あれ? 何?
あ。
…ひぃ…。と、状況を把握して体が強張った。そうだった。そうでした。それに気付いたらしいもう一人も目を開く。
あー…。その彼女の顔を見てもう一人は思った。これは駄目だ。こんなのバレたら絶対駄目だ。真っ赤になって泣きそうになっている彼女を見ながらそう思う。前は恥ずかしそうではあってもこんなに動揺したりしなかった。今抱き締めたから? それとも昨日の事を思い出した? どっちでも良いけど朝になっても昨日の余韻がここにある。もしかしたらこれからずっとそうなのかもしれない。だとしたら本当にまずい。
…嬉しいけど。
「三咲」
「ひ…っ」
仰向けにひっくり返したら悲鳴を上げる彼女に言う。上にのって首をなぞって。
「やっぱりここにキスマークつけて良い?」
「き? …えええ。え、え? だ、駄目。駄目です」
そう言われて思い出したらしい。無意識の内に隠していた体を見ると、赤い色が幾つもついてる。う、嘘。こんなに沢山。
「ねえ。どうしても駄目?」
ここ。と、主張するように首にキスをして、甘えるように囁かれた言葉に体が震えた。ぐら、と意志が傾いてしまいそうになる。でも、でも絶対駄目。
「んん…」
と、必死に首を横に振った。高埜さんも、高埜さんだって物凄く気まずい思いをするんですよ? 駄目です。と、心を鬼にした。
「ふーん…。じゃあ、会社で今まで通りできる?」
「今まで通り?」
不思議そうに聞き返した顔に説得を諦めた。何を言っているのか全然分からないようだ。それに無意識にやっていたことなら説明してもできる筈がない。
「やっぱつけとく」
「えっ。何で? 駄目、駄目です…っ」
「じゃあ、安心させて」
「あ…っ」
首を隠そうとした手を押さえつけて、昨日と同じ様に体に舌を這わせた。びくっと震えて声を漏らしたものの抵抗はない。意外。と思って顔を見たら、目が合った彼女は少し悩んでから首を振る。
「あの、体…汚れてるので…」
やっぱり駄目だ。と思い出したらしい。けど嫌とは言わない。押せば倒れてしまいそうな隙だらけの拒否。途轍もなく昨日が良かったんだろう。それが態度で分かる。
それにしてもこんなにも分かり易く変わるものなのか? おまけにこういうことに夢中になるなんて。
じゃあ。
「分かった。シャワー浴びてきて良いよ」
ですよね。はい。そうします。と、素直に頷いて体を起こした彼女に言った。
「出たらもう一回しよ」
すると、ひぇ…。という小さな悲鳴が返ってくる。見ると顔は真っ赤っか。だからそういうの駄目だって。
「み…」
あー、もう。本当にどうしたものか。と思いながら体を起こしたら、一瞬早く声が聞こえてきた。
「あの…はい。もう一回、して下さい」
そして、ちゅ。と、気のせいみたいなキスをしてガウンを羽織った彼女はバスルームに逃げていく。ええ? あんな表情でこんな事してそんな事言う? 不覚にも一本取られて、目を丸くしてから思わず頭を抱えた。
だからその後、仕返しに昨日よりもいじめて甘やかした。気持ち良い場所を教えてとおねだりをさせた。言えればたっぷりと可愛がった。自分がいなければ駄目な体になってしまえばいい。でも、そんなに上手くもいかない。
「あ……も…う…あん…」
自分の腕の中で恥じらいながら小さな声を漏らす彼女を見ていた。やっぱり凄い可愛い。昨日の余韻が残ってるのは彼女だけじゃないらしい。
「ん…っ」
さっきの彼女のように軽いキスを首にしたら甘い声が聞こえてきた。この声も良いな。いつもと全然違う。当たり前だけど。
「…あ…あ……た…高埜さん…っ?」
からかうように他の場所にも優しく触れたら、それはそれで刺激的だったらしい。軽いキスも、撫でるような指先にも過敏に反応する。少しずつ体の中に溜まっていくかのように、怯えるような震えは触れば触るほど酷くなる。
「う……んん…」
やがて、もう触れなくても震える彼女を見て思う。こんなに感じやすいと思わなかったな。いや、自分がそういう風になって欲しいと思って触れているからだ。ぎこちなくそういう事をしたことがあるから分かる。だったらこの変化って、自分と同じって思って良いのかな。
体を庇う手を押さえつけて、彼女が好きな場所を今度は濃厚に舐めてみた。我慢できない声が気持ち良いと教えてくれる。
「ん…っあ……あ…っ」
そのまま少し体を揺らしたら、彼女が泣きながら震えるのが見えた。こんなに思い通り反応してくれるなんて本当に可愛い。
「いっちゃった?」
ふえ…。と、泣きながら逃げるように顔を隠す。言わなくても分かるでしょとでも言いたげに。
こういう事、俺、本当は嫌いな筈なんだけどな。そう思いながらも彼女に囁いた。もっと気持ち良くして上げるから良いよね?
「三咲のえっち」
そう言ったらこっちを見た彼女が涙目で呟く。
「…高埜さんの意地悪」
その言葉に笑ってしまう。知らなかった。恋人同士ならこんなやり取りまで楽しめるなんて。
「いや?」
「…え?」
嫌な訳じゃ…。というか、むしろ…。と思ってもそんなこと言えない。相手には全部見えてるけど。
「ごめんね」
「ち…ちが…」
「じゃあ良いの?」
あう…。と、言葉を失った彼女にまた笑ってしまった。
「可愛い」
そう言ってキスをしたら縋るようにしがみついてくる。離れるともっとと求めてくれる。追われてる筈なのに立ち止まってそれを待っているみたいな、自分が追っている感覚になって少し焦った。そうして貰えなかったら落ち込んでしまいそうな。
だから今日も名前を付けた。まだ色濃く残るその肌に。
首の後ろは同じところにもう一度。
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