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そうじゃなくなった二人の話2
「高埜さん」
と、声を掛けた。目が合った彼は、気のせいみたいな優しい顔で笑う。あれれれ。一昨日から何か変。自分が? それとも相手が? 分からないけれど何か変。赤い顔が緩みそうで、慌てて頭を下げた。
「お…お待たせしてすいません…」
「全然待ってないよ。時間通りじゃん」
なら良いんですけど…。と思いながら二人でゆっくりと歩き出す。どきどき。あー。静まれ心臓。
「雪だるま届けた?」
「あ、はい」
「姪っ子ちゃん、どうだった?」
「も…もう、もうすっごく可愛かったです」
と、興奮して両手を握り締めて言った。さっき泣き崩れる程の破壊力を持っていた可愛い姪っ子を思い出す。あー。もう堪らないーー!!
「後で写真見せますね。友達も見せて良いって言ってたので。ふわふわで、にこにこで、本当にすっごく…」
…あ。
でも、普段だったらこんな言い方はしない。と気付いて、気まずくなって一度俯いた。それから再び顔を上げると不思議そうな顔をした彼と目が合う。やっぱり変。こんなに目が合うの、落ち着かない。
「…すいません。煩くて…」
「え? 良いんじゃない? それ位可愛かったんでしょ?」
「は…はい。それはもう…」
「良かったね。初めてのクリスマスにデートぶっちぎって買いに行った甲斐があったよねー」
「……あう…」
どうしよう。やっぱりそうだよね。と思いながら呟いた。冷静になればなるほどそう思う。そりゃ友人もかつてない程お怒りになる訳ですわ。
「高埜さん…。あの、やっぱり、お…怒ってますか?」
「怒ってないよ?」
何度も言ってるけど、本当に怒っていないし感謝している。本心でそう思っている事がこの返事で彼女に伝わるかどうか。だって本当に僅かだけど面白くないのも確かですから。
「今日、俺にもクリスマスプレゼントくれるんでしょ?」
本当はクリスマスプレゼントなんてどうでも良かった。欲しいものも無いし、そういう事に拘る性格でもない。でも彼女が姪っ子に向けた情熱に、そう。ぶっちゃけ嫉妬してるのだ。自覚もある。あんなに大きな愛情を持てるなら、自分にだって少しは向けてくれても良いんじゃないの? と。本当は泣きながらプレゼントを買えなかったと言った彼女にそれは満たされてはいるんだけど、強欲な本音を言えば自分も目に見えるものが欲しくなった。それ位の執着が今は彼女に対してはある。
「そ、それはもう」
と、やる気満々で答えたものの、何日も探し回って見付からなかったプレゼントだ。彼女は小さな声でこうも付け加えた。
「でも、あの、どんなものが良いのか分からないので教えて下さい…」
「それはこっちも同じだから。ちゃんと欲しいもの教えてね」
お互いの事をまだ良く知らない者同士。それなのに一夜で心も体も近付き過ぎてこそばゆい二人は、クリスマスの終わった街を歩いた。
あ。可愛い。
そう思って少し歩を緩めた。欲しいものと言われても、どの位の値段のものを言えばいいのか分からない。欲しいものがある訳でもないし。
そう思っていたら目に留まったヘアアクセサリー。今までは仕事中、黒いヘアゴムで後ろに束ねていただけだけど、ちょっと可愛いものを付けたいな。高埜さんも会社にいるし。あんまり飾り気のない彼女だと良くないんじゃないかと急に考えてしまう。…のは自覚してしまったら恥ずかしくなったから頭からさっさと消去した。
さて。
やっぱりいいな。貰ったものを毎日つけられるのも良いし、これだったらお願いしやすい。
「何か気になる?」
と、気が付いてくれた彼が言う。
「あ、あの、ヘアアクセサリー良いなって…」
と、言いかけて思い出した。そして真っ赤な顔で「やっぱり良いです!!」と首を振る。駄目だ駄目だ! 絶対駄目!!!
「え? 何で? 良いじゃん。気になるなら合わせてみれば?」
にやにやにや。と、楽しそうに…ちょっと悪い顔をして彼は笑う。あ、狡い。
「本当に、今日は、本当に止めておきます」
「だから何で?」
「なん」
知ってるくせにー!! と、言いたかったけれど言えずに口をぱくぱくさせていたら、自分の後ろに移動した彼が指で髪を避けた。
「あ。まだ結構赤いね」
ぎゃーーーー!!!
…と、叫びそうになって口をもがもが押えた。幾ら何でも…高埜さんー!!!
「ごめんごめん」
流石に可哀想になって手を引っ張った。
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