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そうじゃなかった筈の二人の話1
二人で頻繁に会うようになった。一緒にいればそれだけで楽しい。一緒に楽しい事をすればもっと楽しい。そんな風に暫く過ごしていたら、そういう場所やイベントが目に付くようになった。へー。知らなかったな。世間はこんなにも賑わっていたのか。思わず時間を逆行した爺さんみたいなことを思ってしまう。
会う前は楽しみだし、その時間が終われば少し寂しくもなった。自分がこんな恋愛をできるとは思っていなかったな。いや、恋愛って本来こういうものなんだろう。相手の事が好きで、会いたくなって、楽しくて、そのせいで嫉妬したり寂しくなったり苛々したりもするんだろうけどそれも好きの一面だ。強い思い入れがあるからこそ、そういう感情が生まれてしまうのも今なら分かる。
うん。はい。よく分かりました。それは分かったし謹んで全部受け入れるけど、その上で一言言わせてもらいたい。何もここまで激変しなくても良いんじゃないの?
いや。最初に言っておくけど不満はない。こうなって本当に良かったとは思ってる。でも考えてみて欲しい。スタート付近を徘徊していた人間がワープして一気にゴールしたらびっくりしちゃわない? お!? 何が起こった!? ってなるでしょ? お正月の双六じゃねーんだわ。人生はゴールで終わりじゃない。ゴールの先にも人生は続いていて、その先にはスタートからゴールまでに経験したものが必要になったりするんじゃないの? っていうか、その経験をしたからゴールなんじゃないの? それなのにさ。それも持たずにゴールしちゃったらその先どうするの? きっと難易度が上がるであろう次章の人生ゲームに手ぶらで挑む訳? それは結構大変だと思う。
うん。例え話なんてしないではっきり言おう。自覚する程自分がおかしい。今まで見えもしなかったものが見えるようになって、色々と想像もする様にもなって、何でもない時に彼女の事を思い出す時間が増えた。本当に何なんだ。レモンを見たら唾液が出るみたいなものなのか? それくらい自分では何もできないし止められない。たかがレモンの癖に生意気な。
…あ。たかがじゃないか。それが全てだ。
多分、彼女は薄々気付いている。気付いているけれども信じられないという方が正しいかもしれない。気持ちは分かる。でも、そうなった原因そのものなんだから諦めて受け入れてくれ。元に戻る気もないし我慢する気も無い。というか元がどうだったか思い出せないし、思い出したとしてももうできない。きっと彼女も同じだと思う。
それでもこっちが向こうの変化に戸惑う事は意外に少ない。それは自分の懐が深いからじゃなくて、単に見えていなかった彼女の素だからだろう。多少意外とは思いつつ、すんなり受け入れられた。
けれど我が身の事ながら自分の変化は異常だ。友人曰く「中の人が変わったのか?」のレベルらしい。自分でもそう思う。会いたくなったり、触れたくなったり、少しからかってみたくなったり、自分でも驚くようなことを言ったり。まぁ、挙げればきりがないけれどそういう事が止まらない。嫌がる事はしないようにしてるつもりだし、信用はしているし、彼女が許容できないようなことを求めるつもりはないけれど、何て言うのかな。今までは限りなくゼロに近かった色んなメーターが、急に許容範囲ぎりぎりまで数字を弾き出したみたいな変化が急に、かつ勝手に起きちゃったんだよね。でも仕方がない。レモンの味を知ってしまったら経験不足でもゴールするし唾は出る。
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