本当はそうだったのに実はそうじゃなかった話3

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本当はそうだったのに実はそうじゃなかった話3

 どうしよう。どうしよう。と、おろおろしながら寝室に来た。怒ってるなら「そういう事」はしないかな。気まずい。でも今はするのも気まずい。…謝らなきゃ。  そんな事を思っていたらさっさとベッドに座らされて口を塞がれた。あれ。と思っていたらそのまま押し倒される。高埜さん? と言いかけたけれど服を捲られて指が肌に触れて言えなかった。何だか雑に扱われている気がする。やっぱり怒ってる?  と、思ったのはそこまでだった。  クリスマスの時からずっと、こういう時には優しく触れてくれていた。敏感にされた体を指一本でからかうような、少し意地悪な可愛がり方。 「あ…っあ…ん…っ」  それなのに今日は同じ人とは思えないくらい直線的に攻められる。弱いところを知っている指がいつもより強く触れて無理やり感じさせられる。何も考えられない。それくらい強引に振り回された。 「や…っん…ん、ん…っ」  ちょっと待ってとすら言わせて貰えない。自分がどういう状態なのかきっと分かっている彼は、その言葉を言ってしまいそうになると口を塞いでそのまま進んだ。目を閉じさせられて、何も見えない視界に快感を与えられて体が震える。  どうしよう。  自分はこうされることも好きなんだと分からされて目眩がする。 「後ろ向いて」  そんな声と一緒にいつかのようにひっくり返された。力無くシーツに顔を埋める。相手に動かされるまで動けない。覆い被さってきたのが分かって体が強張った。 「ひ…っ」  背筋に舌が這ってびくびくと震える。胸も弄られて、もうひたすら耐えるしか無かった。 「ん…んん…」  肩やうなじにも触れられてシーツの隙間から声が零れた。うつ伏せに近い状態で耐えていたら少し腰を持ち上げられて中に入ってくる。 「あ…っ」  息が止まるほど気持ち良くて、それ以上声も出せなかった。  そのまま動かれてまたシーツに顔を埋める。暗闇の中で快感とだけ向き合わされて口を噤んでいるのに音が漏れ出した。痛いくらいにシーツを握り締める。まるで怖いことをされているみたいに。 「体起こして」  不意に少し体を起こされた。はーはー…と、荒い息をしながら震えていたらまた体が揺れる。コントロールの利かない体がまた勝手に感じ始めた。 「あ…っあ…だ…駄目…っ」  こんなに激しい声を漏らしたことない。止めたいのに体を揺すられて声が落ちていく。 「三咲」  そんな自分に彼は言う。もっと体を起こされて顔を後ろに向かされた。抱き締められて背中に熱が伝わってくる。 「声我慢」  そう言って手伝ってくれるみたいに口を塞がれた。窮屈な体勢が苦しいのに気持ちいい。 「ん…んう……ん…」  やだ。もっと。と、はしたない顔で離れた唇を追ったら彼が笑う。そして望み通り、もう一度キスをしてくれた。  仰向けにされて甘えるみたいに抱き締められた。受け入れてしがみ付いたら褒めるように髪を撫でてくれる。首や胸に舌が触れて腕の力が緩んだ。その手で口を押さえる。 「ん…んん…ん……」  言われた通り、ずっと声を我慢していたら彼が笑う。 「三咲」  そう言って口を塞いでいた手を取られて指を絡めた。 「やっばり声我慢しなくて良いよ」  そんな事を優しく言ってくれるのに、やっぱりこっちに選択権は無い。両手を押さえ付けられて無理矢理喘がされた。 「や…っやだ……っ」  本当に我慢できない。我慢と言われてほっとしていた。あのままだったらあられもない声を聞かせてしまうって。だからもう嫌なのに。 「駄目。聞かせて」  手の平で転がすようにそんなことを言う。 「凄い可愛い。もっと聞きたい」  意地悪。でも怒っていないことだけは分かった。だから言われた通り我慢せずに甘えた。  気怠い。  けれど心地いい。むにゃむにゃとシーツにすり寄ったら笑い声が聞こえてくる。  あ。  ぱち。と、目を覚ました。そしてすぐに夜よりもその前の事を思い出す。自分はずっと気になっていたんだ。幸せな筈の目覚めに泣きそうになった。 「高埜さん…」 「おはよ」  優しく抱き締めて、よしよし。と、子どもにする様に髪を撫でて甘やかしてくれる。ううう。本当に、本当に…。 「お…おはようございます。あの、あの…昨日は本当に、すいませんでした…」  ごめんなさい。ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです。甘やかしてくれたから安心したし、罪悪感に耐え切れずに謝罪した。 「んー…」  それを聞いて髪を避けてくれて、肩から首を撫でてくれて、くすぐったくて肩を竦めた自分を見て彼は笑う。 「まぁ良いよ。許して上げる。お仕置きもしたしね」  お仕置き。  あうう。あれってお仕置きなんですか? それにしては随分…。と言いかけた言葉を慌てて飲み込んだ。 「シャワー浴びる?」 「…はい。あの、高埜さん、先にどうぞ…」 「うん。出たら何か食べに行こうか」  そうですね。お腹空きましたね。…すっごく。そう思いながら頷く。  あー。こういう時にちゃちゃっと朝食とか作れたらいいのに。料理に苦手意識はないけれど実家暮らしだし、そういう事に日常的に触れていない。そろそろちゃんと練習しよう…。情けない顔を隠しながらそう思った。  さて。  よし。と。鏡の前で頷いた。いつもと同じメイクと髪型。これもどうにかした方が良いのかな。「こんなことしている暇があるなら肌の手入れのひとつでもしろ!」と言っていた親友の言葉が急に重みを増してくる。ううう。と首を振って一旦忘れる事にした。今できる事はない。待たせちゃってるし急がねば。 「お待たせしました」  とリビングに戻ったらビーズクッションに寄り掛かった彼と目が合う。未だにビーズクッションとこの人の組み合わせって意外って思っちゃう。可愛いけど。 「準備できた?」 「はい」  膝を着いてポーチを鞄に入れて、それを膝に載せたら座ったまま距離を詰めた彼が笑う。 「ねぇ」  え? 何ですか? 目を丸くして見上げた自分のうなじを指で撫でて、彼はもう一度確認する様にこう言った。 「本当にこれで出かけて良いの?」 「…え?」  空気が抜けたみたいな言葉を返してその意味を考える。これ? …って?  嘘っ。  何を言われているのか分かって慌てて鏡の前に戻った。けど見えない。鏡! 鏡!! あわわと鞄に入れたポーチを取りに戻ったら彼が楽しそうに笑ってる。嘘でしょ? 嘘ー!!  そしてそれを持って再び姿を消した彼女の悲鳴が数秒後に響いた。
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