そうじゃなかった筈の彼女の話1

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そうじゃなかった筈の彼女の話1

 クリスマスから半年、ずっと仲良く過ごした。こんな風になれるとは思わなかったと告白した六月になって思う。彼女といるとほっとする。安らぎってこういうものなんだと実感する。  一年経ってふと気付いた。あれ? そう言えばあの子、誕生日いつなんだ? 聞いたらしどろもどろに秋生まれだと白状する。こっちも聞かれて夏生まれだと言ったら青ざめた。いやいや。何で? 絶対どっかでスルーしてるんだから青ざめる必要なくない? それに何もしていないのはお互い様でしょうが。そんな事すら教え合わなかった半年を、これからちゃんと塗り替えていこう。  あれからも誘うと彼女はちょこちょこ家に来るようになった。簡単なものしかできませんがと言いつつ時々ご飯も作ってくれる。じゃあ自分もと簡単なものを作ったら美味しい美味しいと食べてくれた。彼女が生活の一部になっていく度に結婚を考えるけれど、彼女はどう思っているのかと考えてしまう。俺、本当に弱くなったな。でも嫌じゃない。これで良いのだ。  そんな家デートのある日。お互いこういう性格だからクリスマスの後も特に普段と違う事は何もしなかったけれど、一応一周年だしどっか行ってみようかと提案してみたら、丁度テレビで特集していたホテルのディナーを食べてみたいと意気投合し、あっという間に行先が決まった。近郊だから日帰りも可能だったけど、調べてみたらオフシーズンだからか宿泊費も思っていたより財布に優しかったし、お祝い事みたいなものだから一泊することにする。近くに地元の商店街や景色の良いところもあるらしく、楽しそうだねと二人でわくわくしながら当日を迎えた。有名な自然公園と神社を回って、地元の商店街を存分に楽しんでからホテルに入った。良く覚えていない前回の旅行を時々思い出したのは、その時と彼女の表情が全然違ったからだと思う。心から楽しそうで嬉しそうなその表情に安心した。自分もきっと自然に同じ様な表情をしていると分かるから本当に安心した。  お目当ての食事も良かった。何でもない週末だから人もそんなにいなくて静かに食事を楽しめた。雰囲気にも味にも満足。少しずつの特別だったけれど、記念に良い一日を過ごせた。  だから気付かなかったなー。彼女が普段と違ったこと。  シャワーから戻ったら、くて。とソファに凭れて寝ている三咲が見えた。お疲れのご様子。今日は結構歩いたしな。と、自分も少し疲れを感じているから納得した。お腹もいっぱいになったしソファの座り心地も良さそうだし、気持ちは分からんでもない。でもやっぱり「眠いならベッドに行け」。  …と、いつかの様に言いかけて思い留まった。駄目だ。それで「はい」って言われたら後悔するような事は言いたくない。そう言わないと思っていても言いたくない。つくづく自分に余裕がない事を感じる。恋愛って本当に窮屈だな。良いけど。  それに何というか、油断している彼女はやっぱり可愛いし危なっかしくて良い。自分だけに見せてくれると分かっているから誰と競っている訳でもないのに変な優越感まで感じる始末。いつかは落ち着くんだろうか。いや、落ち着かなくても良いや。 「三咲」  酔っていたのかな。泊まりだからと結構飲んだし。それとも恋人だからこういうのもありだと思ったのかもしれない。理由なんて分からないけど寝込みを襲ってみた。どんな反応をするかなと思いながら眠っている彼女にキスをしたら、うとうととした様子の目が少しだけ開く。うん。完全には眠っていなさそうだ。とろんとした目が艶めかしい。 「ん…」  今度は濃厚に舌を舐めてみたら声を漏らして少し震えた。 「…ん? た…高埜さん?」  戸惑っている彼女の声を無視して少し強引に進む。腰を抱いてガウンを脱がせながら首を舐めたら耐えるように体が強張る。良いなぁ。こうやって反応するの。 「あ…え? え? あの…っ」  もっと先に進んだら、完全に目を覚ました様子の彼女の声が聞こえてきた。ちょっと遅かったね。 「あ…高埜さ…ん…ん…っ」  あっちこっち好きなところを撫でて舐めてといじめたら、強張っているのにふにゃふにゃと体から力が抜けていく。色付いた肌が吸い付くように少し湿った。 「こんなところで寝てるのが悪いんじゃない?」 「ご…ごめんなさ…っ」 「謝らなくていいよ」  首にキスをしながら胸をまさぐって囁いた。 「油断してて可愛い」  そう言っただけで少し抵抗が弱くなる。どんだけ素直なんだ。 「…ん…んんん…」  キスをして、そのまま手を下に滑らせた。さすがに少し抵抗したけれど、その足の隙間に手をねじ込む。顎を上げさせて深いキスをすると、そっちに気を取られたかのように少し足の力が抜けた。先に進むと縋るように自分のガウンを掴んだ手が震える。そうだよね。これじゃあ恥ずかしいよね。もう凄い濡れてる。 「こういうことされるの気持ちいい?」  唇を少し離して彼女の顔を覗き込んだら涙目がうっすらと開く。そこから涙が零れ落ちた。その目を見ながら呟く。 「三咲って本当はいやらしいよね」 「ん…んん…」  本気で泣きながら彼女は首を振った。でも触ってるから感じてるの分かってるよ。気持ちいいんでしょ?  こういうの、本当に嫌いだった。でも今は理解できなくもない。少し恥ずかしい思いをした方が気持ち良くなれるんなら使っても良いかなと思う。…これは好きな子をいじめるのとは訳が違うか。 「ん…だ……駄目……」  少し攻めたら泣きながら彼女がしがみ付いてきた。受け止めて抱き締める。その代わり触りやすいように彼女の片足をソファの脇に置いた。その方が楽だったのか甘やかしたからか分からないけれど意外なほど素直に従う。少しずつ崩れていく理性が心地良い。拒否を見せながら求めてくれる矛盾も。 「…あ…も…もう……い…」  その言葉を聞いて彼女の首や胸を舐める。びくびくと震えて全部感じているのが凄く可愛い。理論的な事なんてどうでも良いんだけど、普段しないことをしてしまう理由なんて結局そういう事でしかないんだよね。
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