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そうじゃなかった筈の彼女の話3
ぬくぬく。朝の少し涼しい空気に肌触りの良いシーツとぬくもりが心地いい。それに、凄く満たされて幸せな感情も体を包んでくれている。あ。そうだ。今日はお泊まりに来てるんだった。と、うつらうつら目を開いて思い出す。
それに気付いたらしい彼が髪を撫でてくれた。また眠ってしまいそうだけどこの感覚を無くしたくないな。暫くその手に甘えて思い立つ。寝顔見られるの恥ずかしい。伺うように目を開いたら彼は笑った。
「おはよ」
「…おはようございます」
あ。朝から格好良い。と、寝ぼけた頭で思った。ふと我に返るとこの人と付き合っている自分が信じられなくなる時もある。同期にも言ったことがあるけれど、いつもスマートで隙が無いし。本当はそんな事は無いから安心して甘えていることなど自覚せずにこっそりと悶えた。そんな自分に彼が言う。猫を愛でるみたいに首を撫でて。
「ここ、痛くない?」
擽ったいけど気持ち良い。そう思いながらその手に甘えながら不思議に思った。痛い? いいえ。と首を振ったら楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「そう。なら良かった。じゃあこのキスマーク、頑張って隠してね」
…はい?
「え?」
キスマーク?
「え? ええ?」
何で? いつの間にそんな。と、微睡みから一気に現実に引き戻された。
「あれ? 『やっぱり』覚えてない? 昨日付けても良いか聞いたら許してくれたじゃん」
「そんな…」
筈は…。と呟いてから思い出して顔が熱くなった。あ。言った。言いました。言ったし、それ以前に私、昨日。
「思い出した?」
嬉しそうに笑い混じりに聞こえた声は、次に少し低くなった。そして自分を仰向けにひっくり返すと咎めるように手を押さえて彼はこんな事を言う。
「三咲さぁ。昨日、結構酔ってたでしょ」
いつもよりも積極的で開放的だった彼女。それしか理由が思いつかない。でも酒に飲まれるなんて聞いてないぞ。
「あ…あの…は…はい」
そのせいもあって滅茶苦茶乱れました。恥ずかしいほどいやらしい自分を次々に思い出す。お酒です。そう。全部お酒のせい…なんですけど、そんな言い訳では何も解決しない。
「そんなに酒弱かったっけ?」
「い、いえ。あ、つ、強くはないですけど。昨日は…」
「あんな風になること今までもあったの?」
「え?」
どういうこと? 飲んでエッチなことに勢いづいた事があるかって事?
「ええ!? な、無いです。昨日は、あの、し、醜体を晒してすいませ」
「そんな事言聞いてない。酒の勢いで普段しないようなことをするのが珍しくないのか聞いてんの」
「しないですしないです。した事無いです」
ぶんぶん首を振って必死に否定した。
「お酒も別に好きじゃないし、普段は酔うまで飲んだりしません。昨日はお泊まりだったし、ご飯が美味しかったし楽しかったし高埜さんが一緒だったからつ…つい…っ」
ああぁー。もう最悪。最悪だー!
「ほんと?」
「本当。本当です」
うんうん。必死に頷いた。これから気を付けるので信じて下さい。
「この先、もうお酒飲みません。昨日は本当に、本当にすいませんでした」
半べそで必死に訴えたら、その顔を見ていた彼が小さなため息をつく。それからいつかのように胸にキスをくれた。ちくりとした痛みと一緒に。
「んっ…」
「昨日、凄く良かったよ」
あ、キスマーク。クリスマスの時と同じ場所。そんなことを思っていた自分の頬に甘えるようなキスをくれて彼は言った。
「凄い気持ち良さそうだったし甘えてくるの可愛かった。だから俺の前ではまた酔っても構わないけど、そうじゃない時は気を付けてね」
え。何…。
かああーっ。と、その言葉を理解して赤面した。それを見て彼が笑う。
「首には付けてないから安心していいよ。でも、俺以外の前で昨日みたいな酔い方したらその時は問答無用で付けるから覚悟しといて」
ひぃ…。何て事を言うのでしょうかこの人は。そんな甘やかし方あります?
「分かった?」
「は、はいっ。はい。はいですっ」
だからと言ってそんな事するつもりは勿論無いので、分かりました。絶対にそのようなことを起こさないように重々気を付けます。と何度も頷いた。
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