【冥界の王女様】

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夏の日照りは、容赦無く盆地の空気をモヤモヤと歪ませている。 青く伸びた田んぼの稲も、じっと黙ったまま風を待ち続けていた。   今日はほぼ無風で記録的な猛暑となり、体感温度は四十度を遥かに超えているかの様だ。   家の中ですら蒸し暑い。 クーラーは思いっ切り強くしていても、なんせ陽当たり良好な一戸建て。 杉浦宅の夏は暑い。       黒夜に注意され、仕方無く短パンを履いて来た妖平は、瑠璃の目の前に座った。   「お前等、何者?」   妖平は、いきなりやって来た異人に訊いた。   瑠璃は少し考えた様に、小さな顎に手を添える。 何とも優雅で繊細な仕草に、一瞬ドキッとするが妖平は目を逸さない。   「冥界の王女だ」   「??」   自らの予想の範囲を、大いに超えてくれたこの回答。 妖平は目を丸くして、しばらく固まっていた。 もっとも、予想出来た答え等幾つも無かったが。   「判らなくて無理は無い」   逆に、答えを聞いた妖平の態度を予想していた瑠璃は、ほんの少し憂いの表情を浮かべてから、毅然と言葉を添えた。   「冥界などというものは、生きるモノの知る世界では無いからな」   瑠璃は軽く溜め息を吐いて、瞳を伏せた。 長い睫毛が影を落とし、心なしか表情を暗くして見せる。   「冥界って。おいおい……幾ら嘘でもそんなん誰が信じるんだよ」   妖平は口の端を痙攣させながら言う。   オカルト的なモノを、全くと言っていい程に信用していない妖平は、目の前の異人を嘲笑った。   「貴様! 言わせておけ……ば?」   ダンッ!!   黒夜が妖平に向かって怒鳴ろうとした瞬間、瑠璃はテーブルに両手を打ち付け立ち上がった。   長い髪が顔を隠していて、その表情を見て取ることは出来ない。   「る、瑠璃様……?」   黒夜は、おたおたと瑠璃の隣りで慌ただしく声を掛ける。   その声に瑠璃は反応しない。   「な、なんだよ」   物凄い威圧感がリビングルーム全体を支配していた。   妖平は椅子を押す様に後退りをする。   「嘘だと?」    
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