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室内の温度が幾らか下がってしまった様な、それ程の冷気が妖平を襲う。
「私は、嘘が嫌いだ」
瑠璃は静かに、重く低い声でそう言うと、しなやかな指先をすうっと妖平に向けた。
「う……」
妖平は異変に気付く。
体が全く動かないのだ。
「覚えておけ。私は人間の様な下衆の云う【嘘】が大嫌いなんだとな」
パチパチと静電気が発生する音に似た異音が、瑠璃の周りに散らばると、黒くて綺麗な髪の毛が僅かに逆立った。
「…………」
何も言えずに、瑠璃の視線から逃れることも出来ないまま妖平は固唾を呑んだ。
瑠璃が静かに腕を下げると、何かの束縛から開放されたように、妖平はテーブルに上半身をだらしなく預けた。
「る、瑠璃様……」
黒夜はおろおろしたまま瑠璃の隣りに立つと、冷や汗を拭った。
(有り得ねぇ……)
妖平は、この得体の知れない人型を頭から消したい思いで一杯だった。
ピンポーン。
ピンポーンピンポーン。
ピンポンピンポンピンポーン。
テーブルに突っ伏したまま黙っていた妖平に、再びインターホンの嵐が襲いかかる。
「出ぬのか?」
電話がなった時と同じ様に瑠璃は言った。
うるせぇ! と怒り任せに出て行った先程とは違い、妖平はうなだれて猫背になった姿勢でゆらゆらと玄関へ向かった。
「おーい! 居ないの?」
外からは女性の声がする。
「!?」
妖平は聞き慣れた声に背筋を伸ばすと、直ぐさま鍵を開けドアを開けた。
「姉貴!!」
「鍵忘れちゃってさぁ。それよりあんた、何で汗だくなの?」
ひょっこり帰宅した杉浦家の長女は、涼しいはずの我が家から出て来た汗だくの弟の姿を見て首を傾げた。
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