101人が本棚に入れています
本棚に追加
「あぁーサッパリした」
杉浦宅から最寄りの駅まで、普通の大人が歩いて三十分はかかるだろうか。
三十分ならまだマシな方ではあったが、この暑い中を三十分はなかなか歩くのも苦痛である。
タクシーを使いたくも無く、バスは一時間に一本なものだから、愛菜は駅から歩いて帰宅した。
体中の汗を洗い流して、ベトベト感から解放された愛菜はバスタオル一枚巻いた姿でリビングへやってきた。
「服来てから来いよ!」
それを見た妖平はガタッと立ち上がり、姉に向かって怒鳴る。
愛菜の風呂上がりはいつもこうだったが、客人が居るのに、という意味を込めて言った。
「いいじゃない。女の子なんだし?」
少しふてくされて愛菜はキッチンに向かい、冷蔵庫から牛乳を取り出した。
「そうだ。気にすることはない」
やり取りを見ていた瑠璃は愛菜に言った。
一瞬きょとんとした後、愛菜は「ねぇーッ」と言ってグラスに注いだ牛乳を一気に飲み干す。
(真希には散々言ってた癖にな……)
キャミソールとミニスカートを纏っていただけ、幾分か真希の格好の方がマシだったと妖平は思った。
「ねぇ名前なんていうの? 何処で知り合ったの?」
愛菜はグラスを置くと、早速瑠璃を質問責めにした。
「名は瑠璃という。妖平とは……式典の日に知り合った」
「そおなんだぁ」
愛菜はなんの疑問も抱かずに質問を続けては納得していく。
(式典てなんだよ)
愛菜と瑠璃の会話の中で、妖平には幾つも疑問が浮ぶが、不思議なことに愛菜は全てに対して納得していた。
(おかしい……)
やっぱり姉貴にも何かあるんじゃないか。
妖平はそう思った。
最初のコメントを投稿しよう!